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有機化学は何をやっているのか その7

2017-07-12 10:38:58 | 化学
前回有機化学の中では、合成ルートの確立がかなり重要な部分であることを書きました。

今までいろいろと述べてきたように、有機化学は合成化合物の決定、合成ルートの確立、合成法の探索、化学実験、精製操作、分析データの解析という流れがほぼすべてです。有機化学は基本的に実験科学ですので、やってみなければ分からない部分がかなりありますので、今回はこの合成反応について述べてみます。

実験操作自身は前にも書きましたように、原料と試薬を秤量し、適当な溶媒に溶かしてかき混ぜるという非常に単純な操作です。私の先生の教えでは、「反応が始まったら終わるまでしっかり観察せよ」というものでしたが、現実的にはかなり難しくなっています。

反応液の色や温度、粘度といった形状を見るわけですが、ほとんど何も変化のないものを何時間も見ているというのはかなりの忍耐が必要となります。反応の変化はほとんどが初期の30分から1時間で起きますので、私は1時間程度はじっと観察し、安定していることが分かったら、あとは適宜反応の進行をチェックするというという方法をとっていました。

この単純で簡単な操作の割には、反応はうまく行ったり失敗したりするのです。ここに実験者の腕という非科学的な要素が入るのです。この典型例が他の研究所での再現性の問題です。

以前このブログで御前試合という話を書きましたが、私の所属する研究所は基礎研究所ですので、大量に合成する装置などを持っていません。動物実験などで大量の化合物が必要になると、他の研究所に依頼して合成してもらうわけです。

その時はすべての工程の詳しいレシピをつけるのですが、時々どこかの工程がうまくいかないということが出ます。そういう場合は担当者が出かけて行って、皆の前で実験しうまくいくことを見せるわけですが、これを御前試合と呼んでいました。

このように同じ反応をAさんがやるとうまくいくのに、Bさんでは目的物ができないということはよくあることなのです。なぜこういうことが起きるのかをいろいろ検証しましたが、これといった原因を突き止めることはできず、Bさんは腕が悪いで終わっています。

昔ある無水条件が必要な反応がうまくいかないということがありました。この時は色々原因を探ったのですが、結果として使う溶媒をあまりにも完璧に脱水したことが悪いということが分かったこともありました。このように追及すれば何かわかることもあるですが、あまりにも時間がかかることや、必ずしも結論が出るわけではないということから、個人の資質で片付けているのかもしれません。

こういったことは有機化学だけではなく、他の分野でも起きており、科学の中の非科学的な部分と言えるでしょう。

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