私が勤務する専門学校の、介護福祉士を目指す学生の介護施設実習が
今日からスタートした。この時期に実習を行う学生は2年生で、女子学生の
中には随分と大人びた美形女子…も、少なくない。
当然、施設は若い元気な学生たちで活気付き、何処か楽しげな雰囲気に
包まれる。毎年この季節になると、かつて勤務していた老人ホームに入所
していたFさんとNさんを思い出す。
お二人とも既に他界されたが、今も鮮やかに残っているあの日々のこと。
Fさんは60代前半の男性で、重い後遺症のため寝たきりの生活だったが、
心は中年時代そのまま。いつもオヤジギャグを飛ばして楽しんでいた。
ある年、実習に来た女子学生rumikoを一目見て、心ときめいた。
何かにつけrumikoを呼びつけ、隙あらばスキンシップを試みようとする。
学生も入所者の依頼を無碍には出来ず優しく接しているうち、益々Fさんの
楽しい妄想は膨らみ、無限大にエスカレートした。
彼女の4週間の実習が終わり近くなった頃、Fさんから話があると呼ばれた。
「此処を退所してrumikoと結婚するので、預けた金を全額下ろして欲しい」と。
rumikoに確かめたところ、「そんなぁ…困ります」。そりゃそうでしょうよ 。
結局Fさんの恋は実らず、実習を終えた彼女は帰校し、再びFさんの前には
現れなかった。儚く恋の夢破れたFさんの気落ちした様子は、可笑しいやら
痛々しいやら…。色白ぽっちゃりrumikoは、Fさん最後のマドンナであった。
もう一人のNさんもまた、実習に来た美形の女子学生に恋をした…らしい。
人当たりの柔らかいNさんは、いつも学生たちに話し掛け良い関係を持とうと
積極的だった。しかし今回の学生yukariは違った。Nさんには何の関心も無く
すげない素振りが多かった…らしい。期待を裏切られたNさんが取った行動は
「yukariに叩かれた」という作話。無視された=馬鹿にされた=叩かれたの図式。
人間は幾つになっても、例え身体は動かなくても、心は自由に青春時代。
爺ちゃんも婆ちゃんも、心ときめき恋をする。いいじゃないの幸せならば~
実習中の学生にとっては迷惑な話だろうが、これもまた老人ホームの一齣。
様々な体験を通して、揺れ動く老人の心理を理解して欲しい。