第6章 計画経済と労働生活
(1)労働配分
資本主義市場経済と共産主義計画経済を労働の面から大きく分ける点は、労働配分の有無である。資本主義市場経済にあっては、労働関係も市場的に構成されるから(=労働市場)、労働力もある種の無形的商品として“自由に”売り買いされることになる。
その結果、資本主義市場経済には付きものの景気循環に応じて、労働力の過不足が常態化する。また求職者は基本的に自力で就職活動―労働力商品の売り込み―を展開するため、いわゆるミスマッチの発生も不可避的である。
貨幣経済を前提としない経済計画は、貨幣基準ではなく、労働時間基準で示されるから、それは一面では労働計画でもある。労働計画は、計画的な労働配分を通じて実施される。ただし、計画経済の対象外の領域では労働計画は示されないが、労働力の過不足を生じないよう、労働配分は適用される。
そのため、計画経済にあっては、一見“自由”ではあるが不安定でランダムな労働市場というものが存在しない代わり、無償労働を前提とした体系的な労働配分の制度が整備される。類推されたイメージとしては、ボランティアの割当を想起すればよいかもしれない。
労働配分の実際は、共産主義社会の進行度によって変わり得る。最初期共産主義社会にあっては、適正な労働力確保のため、一定の強制的な労働配分がなされる可能性を排除しないが、完成された共産主義社会にあっては、労働は完全に任意とされたうえ、より選択的な配分がなされるだろう。
いずれにせよ、計画経済の下では、職業紹介所が中心的な労働配分機関となる。共産主義的な職業紹介所は、資本主義的な職業紹介所とは異なり、単なる職の斡旋機関ではない。
すなわち職業斡旋は、労働市場の存在を前提に、労使の出会いの機会を提供するにとどまるが、計画経済下の職業紹介所は、経済計画と環境経済情勢とに照らし、個別的な求職者の志望と適性を科学的にマッチングしつつ、教育機関とも連携しながら適職を紹介する体系的な制度である。
この制度が機能することにより、労働力の過不足は解消され、長時間通勤を要しない職住近接も相当程度に実現するだろう。そのうえ、心理学的な職業カウンセリングを通じた適職紹介が保障されることで、合理的な職業選択が後押しされるだろう。