第6章 計画経済と労働生活
(2)労働基準
資本主義市場経済下での労働基準は、労働力提供の対価(=労働力商品の価格)である賃金と労働時間の相関で規律される。すなわち労働時間に見合った賃金の保障、賃金に見合った労働時間の規制が基本となるが、実際には多くの不払い労働時間を含んでおり、それがマルクス的な意味での「剰余価値」の源泉である。
無償労働を基礎とする共産主義計画経済下の労働基準では、賃金という対価制度がないため、労働基準も一元的に労働時間で規律される。法定労働時間をどう設定するかは政策的な判断にかかるが、計画的な労働配分制度が確立されれば、いわゆるワークライフバランスも、単なるスローガンや企業努力の問題ではなく、労働計画の一内容として統一的に実施できる。
例えば、計画的なワークシェアリングと組み合わせて現在の半分の4時間労働(半日労働)を原則とすることも不可能ではない。無償労働となると、裁量労働制の導入・拡大がしやすくなり、法定労働時間の規制が形骸化するのではないかという疑問もあり得るが、対価を伴わない労働において時間は唯一絶対の規制枠組みである。
さらに、賃金問題に収斂しがちな市場経済下の労働基準とは異なり、計画経済下では労働環境の問題、例えば職場ハラスメント防止対策や性別その他の属性による雇用差別の問題など、賃金問題には回収できない労働問題も広くカバーされるだろう。
資本主義的な労働基準は、資本の活動に対する後発的・外在的な経済規制の一種であるから、利潤を上げようとする企業体の側では極力その規制をかいくぐろうとする底意を秘めている。そのため罰則で担保された労働基準監督制度が要求されるが、それすらしばしば有効に機能しない。
共産主義的な労働基準は初発的・内在的な価値規準であって、利潤を考慮する必要のない企業体にはそれをかいくぐろうとする動機も働かない。そのため、労働基準監督制度は不要とは言わないまでも、警察権を持つ労働基準監督官のような制度は必要なくなり、企業内部の仲裁制度のようなものによっても労働基準は担保できるようになるだろう(詳しくは本章(4)参照)。