六 世界共同体直轄圏
世界共同体は、前回まで個別に見てきた五つの汎域圏に包摂される領域圏のほかに、いくつかの地域を直轄圏として包摂する。直轄圏は、いずれの汎域圏にも包摂されないという限りで世界共同体の直轄であるが、それにも一般永住民が居住しない直轄行政圏と、一般永住民が居住する直轄自治圏とがある。前者には世界共同体の管理機関が存在するだけである。 後者の直轄自治圏では民衆会議を通じた自治が認められる点で、一般の領域圏と実質的な差はない。ただし、直轄自治圏は世界共同総会が任命する直轄自治圏特別代表が総代として世界共同体で議決権を行使するが、各直轄自治圏は一名のオブザーバーを送ることができる。
(1)直轄行政圏
直轄行政圏は、次の三つである。
○南極大陸圏
南極大陸全体を包摂する直轄圏。旧南極条約を継承・発展させた世界共同体南極条約に基づき、南極大陸には人が恒久的に居住する領域圏を設定せず、世界共同体の直轄管理下に置くことが約される。地球環境全般の指標となる南極の環境観測のため、世界共同体南極観測センターが設置される。
○サウスジョージア・サウスサンドウィッチ諸島
南大西洋の旧英領サウスジョージア・サウスサンドウィッチ諸島を継承する行政圏。世界共同体の海外領土禁止の原則により、英領から移行する。
○北太平洋環礁群
北太平洋上のアメリカ合衆国領ウェーク、ジョンストン、ミッドウェーの各環礁をまとめて世界共同体直轄圏に移行する行政圏。主としてオセアニア全域の海洋環境保全を目的とした環境保全基地がウェーク島に設置される。
(2)直轄自治圏
直轄自治圏としては、以下のものがある。
○ラカイン
現ミャンマーのラカイン州を分立した自治圏。迫害されてきたイスラーム教徒ロヒンギャの人道的保護を目的とする直轄自治圏である。汎西方アジア‐インド洋域圏の招聘自治圏。
〇サンピエール島‐ミクロン島
北米における旧フランス海外準県サンピエール島及びミクロン島を継承する自治圏。世界共同体の海外領土禁止の原則により、英領から移行する。汎アメリカ‐カリブ域圏の招聘自治圏。
○フォークランド諸島
南米の旧英領フォークランド諸島を継承する自治圏。世界共同体の海外領土禁止の原則により、英領から移行する。汎アメリカ‐カリブ域圏の招聘自治圏。
○ジブチ
東アフリカの独立国家ジブチを継承する自治圏。小国ながら紅海の要衝に位置することや、世界共同体平和維持巡視隊海上部隊の基地を設置する関係から、直轄自治圏となる。汎アフリカ‐南大西洋域圏の招聘自治圏。
○北部ダルフール
スーダンのダルフール地方のうち、民族紛争が激しい北部を分立させる自治圏。迫害されてきた非アラブ系住民の人道的保護を目的とする自治圏。汎アフリカ‐南大西洋域圏の招聘自治圏。
○西サハラ
アフリカ北西の西サハラはモロッコ占領地と独立運動組織ポリサリオ戦線支配地に分断された長期の紛争地帯であったが、西サハラ全体を直轄自治圏とすることで合意される。汎アフリカ‐南大西洋域域圏の招聘自治圏。
○スヴァールバル諸島
北極圏の旧ノルウェー領スヴァールバル諸島を継承する自治圏。加盟国の自由な出入を保障していたスヴァ―ルバル条約を発展的に解消し、ノルウェー領から直轄圏に移行する。北極圏の環境観測を目的とする北極圏環境観測センターが設置される。また北極圏の海洋巡視のため、世界共同体平和維持巡視隊海上部隊の基地も設置される。汎ヨーロッパ‐シベリア域圏の招聘自治圏。
※オセアニア諸島
キリバス、ツバル、ナウル等、オセアニア地域で海面上昇による水没の危険の高い島嶼において、居住環境を維持するため、世界共同体の環境保護及び人道的目的から、直轄圏となる可能性がある。ただし、世界共同体の創設時に居住可能状態がなお維持されているが、危機に瀕しているという仮定上の直轄圏である。
七 信託代行統治域圏
世界共同体は、直轄自治圏を含めた構成主体の民衆会議の決議に基づき、一定期間代行統治を行なうことができる。これは、当該領域圏の自立的統治が紛争や災害その他の事変によって著しく困難になった場合、例外的に世界共同体が直接に行なう暫定統治の形態である。信託代行統治域圏に認定された領域では世界共同体が設置した暫定代行統治機構が統治を行ない、所定期間の満了後に、民衆会議に統治権を返還する。信託代行統治域圏は恒久的ではなく、そのつど個別的に設定されるため、具体例を予め示すことはできない。