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持続可能的計画経済論[統合新版](連載第17回)

2024-12-09 | 持続可能的計画経済論[統合新版]

第1部 持続可能的計画経済の諸原理

 

第4章 計画化の基準原理

(2)環境バランス①:「緩和」vs「制御」
 持続可能的経済計画の策定に当たっては、環境バランスが物財バランスに優先する基準原理となる。環境バランスとは、厳密には、地球の自然生態系の均衡的な維持に係る生態学的なバランス(ecological balance)を意味している。
 その意味では、「生態バランス」と明確に規定したほうがふさわしいかもしれないが、必ずしも広く支持されている用語ではないので、ここではより広範に地球環境の健全なバランスという意味で「環境バランス」としておく。
 このような意味での環境バランスの原理として最も初歩的なものは、生態系への負荷を可及的軽減する「緩和」(mitigation)である。これは、経済開発をするに当たり、開発そのものを統制するのではなく、開発により発生する環境負荷を段階的に軽減することを目指すものである。
 その段階として、回避→最小化→矯正→軽減→代償の順を追っていくが、はじめの「回避」はある開発行為をそもそも回避するというゼロ回答であるからほぼ採用されず、二番目の「最小化」も、ある開発行為の程度や規模を最小限に抑制することを意味するから、採用されにくい。
 三番目の「矯正」は、開発行為によって損傷された生態系を修復することが可能な限りでは機能するが、その修復に多額のコストを要する場合には却下され、結局は四番目の「軽減」に落ち着くように仕組まれている。実際のところは、「軽減」でさえも開発の妨げとなるので、逃げ道として用意された五番目の「代償」(金銭的補償を含む)で処理されることも多い。
 このような発想は、「開発と環境の両立」スローガンに象徴されるような資本主義枠内での「環境保護」という緩やかな環境政策には適合的である。実際、この考え方が、沿革的には資本主義総本山のアメリカ合衆国で発祥したという事実にもうなずけるものがある。もっとも、計画経済にあっても、開発に重点を置く開発経済計画のスキームならば採用することのできるものである。
 しかし、生態学的持続可能性の保障に重点を置く持続可能的計画経済の原理としてみると、「緩和」原理はまさしく緩やかすぎて、基準原理としては不十分である。むしろ、「制御」(controlling)という考え方を導入する必要がある。
 「制御」とは、「緩和」にとどまらず、より積極的に生態系の均衡維持のために生産活動を量的にも質的にもコントロールする基準原理である。先の「緩和」原理の五段階に照らすなら、回避→最小化→矯正の三段階を計画的に実施する一方、軽減や代償という中和化された段階は排除されることになる。
 このような「制御」原理は一つの大枠であって、これを計画経済に適用するためには、生産活動による環境負荷を客観的に計量するための収支計算を可能とする精密な数理モデルを考案し、適用する必要がある。これが次なる課題である。

 

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