第2部 持続可能的経済計画の過程
第5章 計画経済の世界化
(1)グローバル計画経済
第1部では、環境的持続可能性を重視する新しい計画経済、つまり持続可能的計画経済の理論的基礎について論じてきたが、そこでの議論はさしあたり、「一国」のレベルでの計画経済を想定してきた。
しかし、環境的持続可能性とは、正確に言えば地球環境の持続可能性―つまり、地球が少なくとも人為的な要因から死滅することのないように保持していくこと―を意味するから、持続可能的計画経済は特定の一国だけで実践され得るものではない。
持続可能的計画経済は、その究極的な形態においては、まさに地球規模でグローバルに遂行されていかなければならない。この点において、それは環境的持続可能性を一国の政策レベルの課題に矮小化する「環境政策論」とも、また気候変動や生物多様性等々特定の環境課題を個別の国際条約―しかも、批准/脱退は各国の個別判断任せ―を通じて協調しようとする近年の潮流とも異なり、よりいっそう徹底した世界化を目指している。
そのためには、持続可能的計画経済の世界的な準則となる世界経済計画が必要とされる。それは前章までの議論で前提とされてきた「一国」レベルにおける経済計画の全体的な大枠(キャップ)となるものである。言い換えれば、「一国」レベルでの計画は世界レベルでの経済計画に基づく個別的な割当て(クォータ)の位置づけとなる。
このような壮大な構想に対しては、果たして数十億人口を抱えるに至った現存地球上でそれほど大規模な経済計画を紛議なく実効的に策定することができるのかという「現実主義」からの疑問が示されるであろう。
たしかに、これは人類がいまだ経験したことのない壮大な経済実験ではある。しかし、それも現存の主権国家体制を揚棄し、主権国家の連合体にすぎない現存国際連合に代わる「世界共同体」を創設することを通じて、実現の道が開かれると考える。
世界共同体は、主権国家に代わって主権を持たない領域圏で構成されるトランスナショナルな政治経済組織である。その意味で、持続可能な計画経済と政治体制の関係は重要な論点であるが、これについては次章で詳論する。