Ⅴ 日本―折衷的集権型警察国家
1‐2‐2:出入国在留管理庁の準警察化
出入国在留管理庁(以下、在管庁)は、2019年に、法務省入国管理局を独立させて法務省外局として再編した官庁であり、その主任務は名称通り、出入国在留管理にある。公式英語名称をImmigration Services Agency(移民庁)としているが、実態は日本語名称通り、出入国管理にも権限が及ぶ。
その点では、アメリカの合衆国税関・入国警備庁と合衆国移民・関税執行庁の二つの機関の権限のうち、税関係を除いた部分を併せ持つスーパー法執行機関である。
長く法務省内部部局であったものをあえて独立させた経緯として、近年、日本の労働人口の減少に伴い、外国人労働者の受け入れが拡大されてきたことに鑑み、在留外国人管理を強化する目的がある。
そのため、機関名として出入国管理に在留管理が付加されたことは偶然ではなく、むしろこうした在留外国人管理、すなわち在留外国人の監視、とりわけいわゆる不法滞在外国人の摘発強化に重点が置かれている。
その点、主に合法滞在外国人の動静を政治的な観点から監視する公安警察の一部としての外事警察とは任務の重点が異なるが、相乗的な部分もあり、在管庁の新設は、広い意味での外事警察の拡大を意味している。
ここには、外国人の受け入れはあくまでも労働力の補充にすぎず、真の意味で移民を認める開放的な多様性政策を志向するのではなく、むしろ治安維持の観点から外国人管理を強化しようとする警察国家的視点がにじみ出ている。
もっとも、在管庁は強制捜査権を持つ法執行機関ではないから、法的な意味での警察機関ではなく、機能的な警察機関である。ただし、在管庁に所属する入国警備官は警察官に近い階級を持ち、国家公務員法上は「警察職員」の扱いを受けるので、在管庁は準警察機関と言っても差し支えない実態を持つ。
その一方で、在管庁は不法滞在者を収容する入国者収容所も所管しており、ある種の監獄の運営にも当たるが、ここでは旧入国管理局の時代から被収容者の不当な長期収容、虐待や放置による死傷事案が絶えず、人権上重大な問題が存在している。これは、日本における影の警察国家を象徴する部分の一つである。
1‐2‐3:法務省矯正局と「刑務警察」
法務省系の警察組織としては、これまでに見た公安調査庁、出入国在留管理庁に加え、法務省矯正局がある。その点で、日本の法務省はその名称どおりの単なる法制官庁ではなく、治安官庁の性格を併せ持つ。
矯正局は全国の刑務所や少年刑務所、拘置所といった刑事施設の管理に当たる法務省内部部局であるが、ここに所属する通称刑務官(看守)は刑事施設内限定で強制捜査権を持つ特別司法警察職員の資格が与えられる。そのため、矯正局は「刑務警察」としての機能を持つが、日本の刑務官はフランスの行刑局看守要員団のような形で包括的な集団化はされていない。
ただし、2019年には、刑務所や拘置所、少年院などの矯正施設において、暴動、逃走、災害等の緊急の対応が必要となる「非常事態」が発生した場合に、迅速かつ的確に対処するための警備部隊として、矯正局長直轄の特別機動警備隊が東京拘置所に常設された。
矯正局が矯正庁のような形で外局化されるかどうかは微妙であるが、少年法改定を含めた厳罰化政策の進展により刑務所人口が増大していけば、刑事施設の管理強化のため外局化される可能性もあろう。