日本漢字検定能力協会が各年度を象徴する漢字一文字を募集し、選定する「今年の漢字」なる企画が1995年に始まったことを知った。もっと早くから始めていれば、それ自体が簡便な歴史の一覧となったものを…と少し残念に思う。
それはそうと、1995年の第一回目が「震」であったというのは当然頷ける。この年は阪神淡路大震災に始まり、地下鉄サリン事件も世界を震撼させた化学テロ事件だったからである。
昨年は打って変わって、「食」であった。その理由として、O157による集団食中毒の多発や牛海綿状脳症(狂牛病)の発生、前厚生労働事務次官の逮捕起訴に至った特別養護老人ホーム汚職のような税金や福祉を「食いもの」にした汚職事件の多発が挙げられている。
食の安全は衣食住の基本として大切であるが、福祉を「食いもの」にして汚すこともやめてほしい。日本では衛生も福祉も厚生省の所管である。厚生省は戦前の巨大かつ強大官庁・内務省から分離したとはいえ、なお巨大官庁であり、利権も巨大なのだろう。さらなる分割が必要なのかもしれない。
世界に目を向ければ、昨年の漢字は「民」だろうか。3月には台湾で史上初の総統直接選挙が実施され、李登輝氏が当選、台湾民主化が本格化。また、人種隔離政策が撤廃され、民主化プロセスが進んでいた南アフリカでは、5月に民主的な新憲法が施行。7月にはロシアでソ連解体・民主化運動の象徴エリツィン大統領が再選。
一方、6月に中国が核実験に踏み切る中、9月には国連総会で包括的核実験禁止条約が採択され(中国も署名)、年末には広島の原爆ドームが世界遺産に認定されたことは、世界平和という点で一歩前進であった。これらも市民による反核運動が下支えとなっての世界的な前進であるという点では、「民」を象徴する。
下世話な話題としては、英国のチャールズ皇太子とダイアナ妃の離婚もあった。英国では16世紀に再婚を狙う国王ヘンリー8世が当時カトリックでは認められなかった離婚を強行するためにカトリックからも「離婚」して英国国教会を創設した歴史があるから、王族の離婚はタブーでないのだろうが、チャールズ&ダイアナ夫妻の話題の芸能風の扱われ方は王族の平民化を象徴するという点では、これも「民」かもしれない。