生保に就職して早19年。かつて営業所の仕事は新規契約にまつわるものが主だったが、次第にオンピュータ化に従って本社の仕事が営業所に下りてきた(普通、逆じゃねえか?)。昔は給付金・保険金の請求は、客から出された書類の中も見ずに本社へ送るだけだったが、10年くらい前からは内容をチェックし、データをPCに入力してから送ることになっている。そういう仕事を始めて気づいたのは、「日本の男ってのは、妻を独立した個人とは見てねえな・・・」ということだ。
というのは、給付金などの受取人欄の下には、「親権者・後見人」という欄が設けてある。言うまでもなく受取人が未成年の場合は財産管理能力が不足するということで、それを管理する権利を持つ親が代わって手続きをしたり、精神上問題があって判断能力が不足する人(被後見人)に代わって手続きをしたりする場合のためである。一般の成人男女にはそのような人は存在しない。しかし、受取人が妻だった場合、どういうわけかここに名前を書いてくる夫というのは、あきれるくらいごろごろ存在する。(この逆は、私の経験ではこの10年間で1度あっただけだ)
・・・これは、親権者や後見人の意味がわかんないのか?いや、わかんないにしたって、少なくとも「親」権者でないことはわかるだろう。じゃあ、後見人の意味がわかんないのか?しかし、私は自分が未成年の頃から禁治産者などを後見する人、くらいの知識はあったぞ?(今は禁治産者という言葉はなくなって、被後見人になったけど)常識だよな?少なくとも社会に出て働いている大人なら・・・。
よしんば知らないにしても(妻が法律的に「被後見人」であると思ってないにしても)、「後見人」という言葉を見て、「妻の後見人は俺だ」と思っている・・・つまり妻が1人でこういう手続きをするものではない、俺が管理するものだ、という意識があって書いてるってことだよな?
先週、似たようなことで客と揉めたので、マジで日本の成人男性の意識がこの程度だと実感したわけだ。
入院給付金の受取人が妻だったので、代理店が妻の名前を書けと指示してくれて、その欄には確かに妻の名前が書いてあった。しかし、印鑑欄には夫の実印(フルネームの印だったのでわかった)が押してあったのだ。そこで「受取人欄は妻の印鑑を押すところなので、別口座振込みの同意印(受取人がお金を自分の口座でなく、他の人の口座に振り込むことに同意する、という欄に押すもの)と同じ印鑑(ここには姓だけの認印が押してあった)を押してくれ」と戻した。すると、私の指示とは逆に、同意印を実印で押し直してきたのだ。「逆だっつーの」とまた戻したら夫から電話がかかってきた。
「実印を押せって書いてあるから実印を押したのに、何がいけないんだ」
この時点では、私は夫に一般常識がないことに気づかなかった・・・。
「ここは奥様の署名押印が必要ですので、奥様の印が必要なんです」
「でも実印って書いてあるじゃないか」
請求書には「保険金請求の場合は印鑑証明印を押してください」と書いてあるのだ。一般の人は「保険金」と「給付金」の区別がつかないだろうが、全く別物だ。保険金とは、その保険が終了する(保障が消滅)ときに支払われるもののことで、今回は入院給付金だった。
「ご請求の際は基本は実印を押してもらうものですが、今回は保険金ではなく給付金ですので、簡易扱いとし、認印でも可能な取扱いをしております。奥様の認印でも実印でもかまいません」
「でも、認印でもいいなんて書いてないだろう。だから実印を押したのに、何が文句あるんだ。何回もだめだだめだって戻しやがって」
「ですから、実印なら実印でもよろしいですが、奥様の実印を押していただきたいんです。受取人はあくまで奥様ですので」
「実印と言ったら俺の実印を押すのが当然だろうが」
ここで私は、夫の頭に「妻の実印」というものが存在しないことに気づいた。おいおい、いい年して一般常識もないのかよ??
「お客様、名前を書いて印鑑を押すときは、どんな書類でも例えば役所でも、名前を書いた人の印鑑を押しますよね?奥様の名前を書いたところに、夫の印を押すのはおかしいですよね?」
私の口調が冷たくなったとしても、しょうがないよなー。けっ。
「・・・だったら、妻が書類書くたびに、いちいち妻の実印を登録しろというのかよ。実印なんて1家族に1つだろう!」
「実印は、個人個人で登録するものです。私ももちろん市役所に実印登録しておりますし、父も母もそれぞれが登録しております」
「・・・もういい!認印を押せばいいんだろう!」
ガチャン。
こいつ、自分が死んだとき、妻がお前の実印押して保険会社に限らず銀行や役所で手続きができるとでも思ってるのかよ。ばっかじゃねーの。
ま、よーするに妻は自分の付属物で、独立した印鑑持つ権利も必要もないと思ってるわけだよな。実印登録してるってことは、何かの手続きの必要に迫られてだと思うけど(私も家を建てるとき契約書に実印押すことになって慌てて登録に行ったクチだ)、妻にはそんな機会はないと信じている、つまり全部自分がすると思ってるんだよなー。
まあ、私は親が会社経営してて、母親も保証人になったりして、両親がしょっちゅう実印がどーのとか印鑑証明がどーとか出してきて、暇な大学生だったときは役所に取りに行かされたりして、大人はみんな大事な手続きをするときに役所に登録した実印を持っているもんだと思っていたけど、サラリ-マン家庭だとあんまり目の前でそんなことは起こらないから知らないのかもしれんけど・・・。
でもさー、「自分のフルネームの実印」が妻の印として通用すると思ってるってことは、妻には個人の印は存在しない、しつこいようだが「夫である自分と同等の権利を、配偶者も持っている」という意識がないってことだとしか思えん。建前では「男女平等」とか言ってもそれは観念でしかなくて、実際には「夫が妻の後見人=妻には財産権、決定権を行使する能力はない」という意識だってことだよな。妻を禁治産者扱いかよ
妻の後見人に自分の名前を書く夫がごろごろいる日本の成人男性の意識は、この程度でしかない、と日々怒髪天をつき、失望通り越して絶望的な気分になるワタクシである・・・。
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