先日、兵庫県にバレーボール観戦に向かう途中に難波で降りてぶらぶらしていたら、たまたまこの「味園ビル」を通りかかったけど、映画を観るきっかけはそのことではなく、昨年の『ドキュメント72時間』で取り上げられたのを視てこのビルに興味を持っていたからだと思う。まあ、理由はどうでもいいか…
さて、映画の舞台はもちろん大阪。冒頭の暴力シーンに、こんなこともあるのかもしれないと思いながら、その後、渋谷すばるさん演じる主人公が和田アキ子さんの「古い日記」を歌うシーンで「あの頃は…」と歌いだすところで心を掴まれた。彼は関ジャニ∞のメンバーだというくらいしか知らなかったけど、パワフルな歌声、そしてその存在感の大きさに圧倒された。
そして、記憶を失った彼を引き取り、「ポチ男」と名付けて祖父と共に三人で暮らし始めるカスミ。二階堂ふみさんの演技を始めて観たのは大河ドラマ『平清盛』で清盛の娘、徳子を演じた姿だった。メインの出演者ではなかったけど、強烈な印象を持った。その後、ドラマ『Woman』でも難しい役を演じられていて、今後の活躍が期待される女優さんだというのは僕にもわかった。
映画の魅力は渋谷すばるさんの歌だと思う。「古い日記」だけでなく、劇中で歌われる「ココロオドレバ」と、エンディングで流れる「記憶」も良かった。彼でなければこの歌は活きなかっただろうし、この歌でなかったら彼の歌声が心に響かなかったのではないかと思った。
でも、この映画はミュージカルではない。山下敦弘監督の作品は『リンダリンダリンダ』、『天然コケッコー』、『苦役列車』をこれまで観たけど、この作品でもポチ男とカスミの心の移ろいを丁寧に描いている。中でもスイカを食べるシーンが心に響いた。カスミの心の揺らぎが観ている側にも共振する。細かく書くとネタバレになってしまうので控えるけど、二階堂ふみさんもこのシーンを印象的だったそうだ。
面白かった。クスッとする場面もあったけど、涙を流す方が多かったかな。まあ、それはおじさんだからかもしれないけど。
多くの人に勧めたい作品だ。渋谷さんの歌を聴くだけでも価値がある…なんて言ったら乱暴だけど、それをきっかけに山下監督の作品を楽しんでもらえたら、それも良いのかもしれない。