踊る小児科医のblog

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子ども支援日本医師会宣言

2006年05月19日 | こども・小児科
子ども支援日本医師会宣言

わが国では少子化が急速に進行し、その対策はいまや21世紀における最重要課題になっています。
日本医師会は、母と子に関する医療・保健・福祉環境の整備等を推進し、次世代を担う子どもたちが心身ともに健やかに育つよう、ここに妊娠・出産・子育てに関する「子ども支援日本医師会宣言」を行います。

1.妊娠を望む人たちへの支援に取り組みます。
2.より安全な妊娠・出産に向けての医療環境の充実を図ります。
3.満足できる妊娠・出産に関する社会環境の整備に取り組みます。
4.子どもが育ちやすい医療環境の充実を図ります。
5.子育てに関する社会環境の整備に取り組みます。
6.学校保健の充実を図ります。
7.障害児などへの支援に取り組みます。
8.子どもや子育て支援のための諸施策について政府等関係各方面への働きかけを行います。

具体的施策

1.妊娠を望む人たちへの支援
1) 不妊・不育治療の充実
2) カウンセリング機関の整備

2.より安全な妊娠・出産に向けての医療環境の充実
1) 妊産婦死亡、周産期死亡減少のための周産期ネットワークの構築
2) ハイリスク妊娠の選別と対応する地域医療システムの構築
3) 分娩施設における周産期医療スタッフの充実
4) 母子感染予防対策の充実
5) 無過失補償制度の確立

3.満足できる妊娠・出産に関する社会環境の整備
1) 出産一時金増額の実現
2) 若年妊婦と就労妊婦への支援

4.子どもが育ちやすい医療環境の充実
1) 乳幼児医療費助成制度の拡充
2) 15歳までの医療費1割負担の実現
3) 小児救急医療体制の整備
4) ペリネイタルビジット、乳幼児健診、育児相談の充実
5) 予防接種の充実と接種率の向上
6) 子どもに関する難治性疾患治療及び先端医療の充実
7) 子どもに対する臓器移植の推進

5.子育てに関する社会環境の整備
1) 病児保育の充実
2) 保育所、幼稚園への協力
3) 子育てサークルや子育てサロン等との連携と支援
4) 子育てをしている親の就労環境の整備
5) 子育てに専念している親への支援
6) 同じ年頃の子どもたち同士で遊べる環境の整備への支援
7) 虐待の予防と早期発見
8) 子どもの権利に関する条約に基づく環境整備

6.学校保健の充実
1) 生命を尊重する心を育む取り組み
2) 性教育、性感染症予防対策の充実
3) 禁煙教育の推進
4) 生活習慣病対策
5) 心の問題への取り組み

7.障害児への支援
1) 医療的ケアの充実
2) 長期入院障害児の後方ベッド確保の推進
3) 特別支援教育への協力

8.政府等関係各方面への協力と働きかけ
1) 産科医、小児科医、助産師の不足と偏在を解消する施策の推進
2) 子どもの心の診療医を育成するための施策の推進
3) 小児保健法の制定
4) 妊娠・出産・子育てに対する税制の優遇

白神山地の麓でも幼い命が…

2006年05月18日 | こども・小児科
白神山地の麓、青森県境にもほど近い山間の町で起きてしまった悲劇。
不明男児、遺体で発見 窒息死、殺人と断定 秋田・藤里
幼い命またも悲劇 住民に不安広がる 秋田・藤里
なんともやりきれなく、コメントする気にもなれませんが、今回は近所でおきた一つ前の事件を警察が「事故」として処理してしたために、第二の悲劇が引き起こされたように伝えられています。もしそうだとしたら、警察の責任は重大と言えるでしょう。それよりも、犯人は現場付近にうろうろしているとは思えず、何の手がかりもないまま自由の身でこの社会を闊歩している。栃木の事件も検挙されていなかったはずだし、連日のように伝えられる不審者情報も、誰一人としてつかまっていない。この種の悲劇をできるだけゼロに近づけるためには、やはり全校スクールバスしか手段はないのか。

大阪の水は日本一おいしい?

2006年05月17日 | 環境・エネルギー
「大阪の水は日本一まずい」という話をよくききますが、実際はどうなんでしょう。NHK土曜夜の「@ヒューマン」で「大阪の水は日本一まずい?」という話題が取り上げられていたようで、9割以上が「おいしい」と答えるまでになったとのこと。それでも、大阪に行ったときに「まずくてのめなかった」という声も聞こえてきます。私も昨年夏に大阪に行きましたが、出された水を飲んだのは1回だけで、そんなに不味かった記憶はありません。(それ以外はペットボトルのお茶を飲んでいた)

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青木Dのサイバラ同行記
3月4日放送 “番外編”「大阪の水は日本一まずい?」編
http://www.nhk.or.jp/human-blog/04/177.html
http://www.nhk.or.jp/human-blog/04/178.html
西原理恵子が番組中で「大阪の水は日本一まずい」と発言したのを聞いた大阪府水道部から、「大阪の水はまずくない。一度飲みに来て欲しい」との連絡を受け、
挑戦状代わりの利き水大会。
3つのコップに、大阪の水道水と、日本産、外国産のミネラルウォーターが用意された。
おいしいと思うものを選ぶ。
西原さんが迷った挙句、選んだ二つのコップ。
なんと、そのひとつは大阪の水道水だった。
西原さん完敗。
どうやって、水をおいしくしているのだろう?
守口市の商店街で、
街の人に現在の大阪の水道水の感想を聞く。
9割以上が「おいしい」との答え。
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青森県では、青森市の水道水が過去に「日本一おいしい水」と評価されたとのことで、
 水道事業について・青森市の水道のプロフィール
八戸にも配水地域によりますが「おいしい水」の水道水があります。うちはその地域から外れますが、特にまずいと思ったことはないですね。売られている「おいしい水」よりも水道水の方がいいかなと思ったこともあります。

ところが、県内で八戸とは八甲田山を挟んで反対側の津軽地域で、雪解け水の影響で水道水が混濁してクリプトスポリジウム汚染の可能性があり煮沸して飲むようにとの緊急通知が出て驚いています。結局1日で解除されましたが、雪解け水とどういう関係があるのだろう?
 2006年5月16日(火)  生水の飲用回避促す/津軽広域
 2006年5月17日(水) 給水9市町村に水道水の安全宣言
 2006年5月18日(木) 水道水質悪化問題/連絡の遅れを猛省すべき
 クリプトスポリジウム症(感染症情報センター)

うみねこマラソンで死者~主催者は状況の検証を

2006年05月16日 | SPORTS
一昨日のうみねこマラソンで初の死者がでたことについては、某所のブログに書いたものですが一番下に引用しておきます。
http://www.daily-tohoku.co.jp/news/2006/05/15/new060515top.htm
http://www.toonippo.co.jp/news_too/nto2006/0514/nto0514_12.asp
私も一番短い3kmタイムなしに出場したのですが、終わったらすぐに帰ったのでこんな状況になっていたとは深夜になるまで知りませんでした。昨年ハーフにエントリーしてリタイヤした経験があるので、とても他人事とは思えません。

救助の状況などがどうだったのか各紙の記事を調べてみたのですが、肝腎のデーリー東北で思いのほか扱いが小さいのには憤慨しています。これだけの大会での死亡事故ですから当然1面に掲載されているかと思いきや「今日の紙面」の見出しにすら掲載されていなくて、大成功に終わった大会記事の付け足しにのように最終面左下に掲載されているだけ。ネットで見ると見出しには出てこないで、主記事のあとに(隠されて)掲載されている姑息さ。

デーリー、東奥日報、朝日、毎日、読売の記事から抜粋・統合すると以下のような状況だったようです。
詳しい情報については個人情報もあり外には出てこないかもしれませんが、
気になったのは次のような点です。
・10キロと折り返しの両地点にスタッフが詰めている目と鼻の先で
・折り返し点にAEDも配置されていて
・後続の救護バスも選手が走って5分位のところに詰めていた
・併走ランナーやスタッフがその瞬間を目撃している
という、ある意味で「最も助かる可能性が高い」状況で倒れたのに、どうしてこんなに手間取ってしまったのか。(記事には5キロ過ぎから10キロ地点を手厚くできなかったのかという指摘があるが、実際にはコース中でスタート地点の次に手厚い地点にいたはず。)
AEDを装着して実際に使われたのか、既にフラットで適応外だったのか。
ボランティア団体以外にスタッフの中でAEDの講習を受けた人がどれくらいいたのか。
6台もあったAEDがどうして救護バスに配置されていなかったのか。

(以下、各紙新聞記事より情報を引用)
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午前10時にスタート、
11時5分ごろ、折り返し地点から300~400メートル手前、10キロ地点の第一通過関門付近で突然倒れた。
スタッフから連絡を受けた大会本部は、
11時11分ごろ、本部近くで待機中の救急車に出動を要請。
付近を走っていたランナー4人に介護され、
約7分後に到着した救護バスの、看護師の資格を持つ救護主任が駆けつけたが心肺停止状態で、心臓マッサージや人工呼吸、
その後、救命ボランティアが自動体外式除細動器(AED)で心臓蘇生措置をしたが手遅れだった。
11時25分ごろ、救急車に収容、
市内の病院に運ばれ、午後0時20分ごろ、死亡確認。

死因は不整脈による心肺停止の可能性が高いという。
従来の救護態勢に加え、ボランティア団体の協力を得て、主催者として今回初めて5、10キロとハーフの各折り返し地点に自動体外式除細動器(AED)計6台とスタッフを配置していた。
AED搭載の救急車と消防車3台のほか、6台のAEDを備えて救命態勢を整えたが、実らなかった。

同新聞社総務局
「AEDとスタッフを要所に配置し万全を期したが、結果的には奏功しなかった」
田畑稔・事業局長
寺牛さんの競技歴や健康状態について、「エントリーは4回目。健康状態は、診断書の提出などを求めるわけではないので、本人にしか分からない」
救急体制について
起伏の激しい5キロ過ぎから10キロ地点を手厚くできなかったのかとの指摘に、「これから十分に考えないといけない」
大会存続について
「大会を十分に検証して、来年大会を開くとしても救急救命態勢を充実したい」

当日夜のNHKニュースでは、AEDの配置場所をスタッフやボランティアに周知していなかったため、今後知らせることを検討すると言っていました。
AEDの台数もNHKでは9台、デーリーでは6台となっているが、上記の情報を総合すると、救急車・消防車3台+市民ボランティアが日赤・市民病院から借りた6台ということか。
同ボランティア「いのちの輪」は開会式前に劇でAEDについてPRしたとのこと。(私は準備のため離れていて見逃しました)
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(以下、某所のブログ再録)
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2006.05.15 00:00
うみねこマラソンで死者~AED配備の甲斐なく

さきほどネットのニュースを見るまで何も知らずにいたのですが、昨日参加した市民マラソン大会で男性が倒れて死亡したという大変な事態になっていたようです。

白状すると、私も昨年同じハーフに(無謀にも)チャレンジして完走できずリタイアした経験があり、しかも(最近は自覚症状もなく調子良いのですが)不整脈持ちという脛に傷持つ身であり、とても他人事とは思えません。

AEDは配備されていて使用されたようですが、どれくらい時間が経っていたのかなど詳しい状況はわかりません。

2006年5月14日(日) 八戸うみねこマラソンで男性死亡
http://www.toonippo.co.jp/news_too/nto2006/0514/nto0514_12.asp

この種の事故が多発しているということは知っていたし、県内の別のマラソンでも突然死の事例があったことは記憶に新しいのですが、これだけ身近に起こると流石にショックですね。

2004年7月5日(月) スポーツ突然死予防へ事前健診をhttp://www.toonippo.co.jp/news_too/nto2004/0705/nto0705_19.asp

強風は自分で感じる以上に脱水や体力消耗を引き起こしますが、その影響があったのかどうか(往路は追い風だったはずですが)。いずれにせよ、中高年のスポーツ突然死をゼロにすることは不可能としても、ランナー側、主催者側の知識や準備によってその頻度を減らせるかどうか。

走ることが一種のブーム(←私もその一人)なだけに、最重要課題と言えるでしょう。

2006.05.14 23:11
千葉チャンと走るうみねこマラソン3km



心配された雨も朝方にはあがり、肌寒い曇天でも走るには問題ない天気。しかし、この時期にいつも悩まされる強風。往路は追い風だが復路は断続的に顔も上げられないほどの風が吹く中、今年はしかしタイムなし3km(保育園児も走る)なので何とか問題なく走り抜ける。高校生になった息子に後れを取ったのは仕方ないが、この風でも目標タイムより1分以上早くゴールできたので良しとしましょう。(タイムは恥ずかしいのでここには書けません)

来年は5kmから1年ずつ距離を伸ばしていくか。終わった後はいつも威勢がいいのだが、つい怠けてしまう。ここが問題。

今回のゲストランナーはチバチャンこと千葉真子選手。開会式の挨拶では、わかっていたはずの高音よりも更に突き抜けるハイトーンの「みなさ~ん」でいきなりぶっ飛ぶ。先日の長野途中棄権で心配されたが、今日もこの風の中3km、5km、10kmと3本も続けざまに出場し、その後のサイン会。プロの仕事とはいえ、元気いっぱい。

こちらも元気をいただいたが、彼女も「ベストスマイル」に書いているように、決して営業ではなく、ランナーとして市民マラソンへの参加を自分への活力にしているようだ。

とりあえず、今日は生の千葉チャンを見て声を聞くことができただけで収穫と言えよう。一緒に走ったはずなのだが、どこにいたのかわからず声をかけることはできなかった。

著書をアマゾンで正規価格の1400円+税で購入していたのに、今日のサイン会で買えば「お友だち価格で1300円」になったというのはちょっと残念というか、ご愛敬ということで。。

次のマラソンに注目したい。応援してます。

平成17年度乳幼児保健講習会(2) シンポ「小児救急体制の新たな動き」

2006年05月12日 | こども・小児科
シンポジウム
テーマ「小児救急体制の新たな動き」

1)地域小児科医連携型:印旛方式
   西牟田敏之(国立病院機構下志津病院院長・千葉県小児科医会会長)

 印旛郡市11市町村(人口67万人)では、小児科診療所が少なく勤務医の比率が高い。小児救急医療体制の7つの基本パターンのうち、Gタイプにあたる4つの中核病院と1つの小児初期急病診療所(登録医48名:小児科医開業医13、他科開業医15、勤務医20)による24時間の診療体制を作りあげた。3年を経過して年間1万6千名の受診、紹介率3%で順調に定着している。ポイントは国立病院勤務医や小児を診療している他科医師の参加による負担の軽減にある。

I. 小児科主標榜医を主体に構築する場合
  一次(初期)救急 二次救急   三次救急
A 小児救急医療センター:24時間対応
B 地域中核病院単独        県内基幹病院
C 地域中核病院輪番        県内基幹病院
D 中核病院に初期  併設中核病院 県内基幹病院
  急病診療所併設
II. 小児科医師と他科医師によって構築する場合
  一次(初期)救急 二次救急   三次救急
E 中核病院に初期  併設中核病院 県内基幹病院
  急病診療所併設
F 地域医師会の   中核病院単独 県内基幹病院
  初期急病診療所
G 地域医師会の   中核病院輪番 県内基幹病院
  初期急病診療所

2)休日夜間急患診療所方式:町田市の事例
   豊川 達記(豊川小児科内科医院院長)

 町田市は人口約40万人で、1994年から稼働していた輪番制の休日小児準夜診療を廃止して、2003年より準夜急患こどもクリニックを市が開設し医師会が運営している。総登録医70名強(小児科医21名、内科医21名、勤務医など)、平日1名、週末休日2名の体制で、19時から22時までの診療時間に平均18.6名の受診者数であった。近接する市民病院の深夜受診者数はクリニック開設後も減少しておらず、コンビニ化の危惧が感じられる。受診の際には必ず電話をする体制にしているが、受付の電話相談化が課題となっている。経営的には市からの委託料3000万円でかろうじて成り立っている。

3)小児救急医療と電話相談事業:広島県の事例
   桑原 正彦(桑原医院院長・広島県小児科医会会長)

 広島県は小児医療環境が恵まれた地域と厳しい地域の格差が激しい。2002年より開業小児科医による小児救急電話相談のモデル事業を開始し、2005年から県の委託事業として継続している。土日祝日・年末年始のみの体制で、2年半の相談件数は5463件、一晩に約20件で、法的問題を起こした事例はなかった。現場の患者数の減少には結びついていないが、育児不安の解消やトリアージ機能など、県民の安心ネットとして貢献したと評価している。利用者の満足度は78.3%と高かったが、相談小児科医の負担が課題となり、勤務小児科医や看護師の協力を受けて365日体制に移行し事業の継続を計っている。

4)地域の開業医と勤務医が連携:鹿屋方式
   松田 幸久(まつだこどもクリニック院長) 

 鹿児島県大隅半島は2市17町で人口約27万人、基幹病院が1か所、小児科開業医は7名のみで、全国有数の小児科医不足地域となっている。一次救急を開業小児科医・内科医が担当し、二次救急は医療センターが担当する方式を導入したところ、夜間休日の小児救急患者数はおよそ4倍となり、担当医は疲労困憊して改善を求める声が多くなったため、対応策の検討を重ねている。

 発表に引き続き、討議では機能分担が進まず病院の患者が減っていない実態や、電話相談におけるトリアージ機能、看護師や保健師の参加、国や自治体からの補助、医師への手当など実情に即した議論が行われた。

 小児救急体制に理想的な一つの答えがあるわけではなく、地域の実情に即したシステムが全国各地で検討され実施に移されている。いずれも課題は維持していくためのマンパワーとそれに要するコストであり、小児科医だけで全国すべての小児時間外患者に24時間体制で対応することはできない。電話相談事業では看護師・保育師の参加を、初期救急医療では他科医師の協力を得ながら、基幹病院に勤務する小児科医の負担の軽減をはかりつつ、地域のニーズに応じた適切なシステムを構築し維持していくことが重要だと考えられた。

平成17年度乳幼児保健講習会(1) 柳田邦男氏講演

2006年05月11日 | こども・小児科
平成17年度乳幼児保健講習会
日時:平成18年2月19日(日)
会場:日本医師会館大講堂
主催:日本医師会

メインテーマ「小児医療充実のための環境整備」

講演
1)IT時代と子どもの人格形成     
   柳田 邦男(ノンフィクション作家・評論家)

 1990年代後半から、動機の理解に苦しむ残虐な少年犯罪が顕在化している。岡田尊司氏(京都医療少年院精神科医)の『脳内汚染』と、その中で引用されている寝屋川市教育委員会調査結果によると、長時間ゲームやネットに耽る子どもは、否定的な自己像と現実的課題の回避、対人関係における消極性、傷つきや復讐へのとらわれ、抑圧傾向と攻撃性、共感性や状況判断力の不足、無気力・無関心な傾向などがみられたという。
 佐世保の事件の加害女児の人格特性として、1)自分を見つめ言語化することが苦手、2)基本的な安心感が希薄で他者への愛着が形成されにくい、3)文脈をとらえて理解する力が未熟、4)表現回避か攻撃への両極端に走る傾向がある、という4つが精神鑑定の結果概要の中で述べられていて、寝屋川調査とぴったり一致する。この女児は、幼少期から母親の無関心により基本的な愛着が形成されず感情が抑圧され、テレビ漬け育児からゲームやメールへと移っていく中で感情の分化が育たず、普段はおとなしいが怒ったら怖い、キレやすい子どもに育っていった。これらの特徴は今の子どもに普遍的にみられるものだが、それが重大な事件に連鎖的につながっていったことを重視すべきで、短絡的な原因論ではなく、それら一つ一つを丁寧につぶしていくような対策を取らなければならない。
 罪を犯した少年の精神発達は6-8歳の状態で止まっていて、自己中心的で、物事を白黒でしか判断できず、迷うことがない。某国の大統領にも似ている。
 メディア、特にゲームの影響は、麻薬の習慣性、依存性と同じであり、より強い刺激を求めるようになっていく。岡田氏は「子どもに笑顔や夢を与えようと買った玩具が子どもの脳を燃え尽きさせ、凶悪な犯罪者にまで仕立て上げてしまうこともある」と警鐘を鳴らしている。
 いま早急になすべきこととして、日本小児科医会の提唱するノーテレビデーの取り組みや、渡辺久子氏のアタッチメント形成理論などが紹介され、政府が進めている小中学校への情報教育をやめさせ、人格形成、ものを考える力、言語力、きめ細やかな感情を育てる教育の必要性が強調された。

2)母子保健をめぐる最近の動向
   佐藤 敏信(厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課長)

 新生児・乳児死亡率のデータでみる限り、我が国の周産期医療は世界でもトップクラスにあるが、将来を不安視させる兆候も見え始めている。その最大のものは産科医・小児科医不足である。
 母子保健政策の歴史を概観し、現在は背景として少子化が進行し、地方分権による地方の責任が増大した状態にあり、主要なテーマも児童虐待、子育て、保育、子どもの心の問題への対応へと変化している。
 産科医・小児科医不足への対応として、医師数そのものは今後相当の過剰状態となる見込みで医学部定員増は事実上困難である。しかし地域偏在や診療科偏在は顕著であり、その背景として女性医師の増加、第二次開業ブーム、新研修制度、大学院重点化などがあげられる。これらに対し、医療資源の集約化、労働環境改善、女性医師のライフステージに応じた就労支援、診療報酬上の「手厚い対応」などが説明された。

走る哲人 『走る人! 鹿児島-青森30日間2300キロ激走日誌』を読んで

2006年05月10日 | SPORTS
 2005年早春、卒業を間近に控えた一人の大学生が鹿児島から青森まで約2300キロを30日で走破した。1日平均80キロ弱を休みなく走り続けるという無謀とも言える挑戦を有言実行で成し遂げ、その克明な記録を自ら書き記した「熱血感動もの」との予想のもとに、感動と活力を少し分けてもらおうという安易な動機から応募してみた。しかし、その期待は良い意味で裏切られることになる。
 自身がクレイジーチャレンジと命名するこの挑戦は、前半で早くも壁にぶちあたる。広島を前にして、膝の上が大きく腫れ上がり、歩く程度の速さでしか進めなくなる。その後も深夜に及ぶ行程、危険なトンネル、心の緩みなどと戦いながらひたすら前に進み続ける。
 なぜそこまでして走るのかという誰もが抱く疑問に対し「自然と戦って人間の意志の強さ、肉体の強さを証明したかったから」だと明言する。この段階ではしかし十分に納得が得られたとは言えない。
 さらに、良いイメージを描くことの大切さを繰り返し強調する。人はイメージした以上のことを達成することはできない。そして、大きな目標を達成するために、小さな約束、毎日のノルマを守ることを自分に課していく。
 毎日ひたすら走り、休み、超人的に食べ、そして眠る日々の中で、回復力が疲労を上回る「超回復」を示し、疲労がピークに達しているはずの東北に入ってから、どんどん元気になり快走を重ねていくのだ。24日目には「人間の限界は自分で思っているよりずっと奥にある」とまで言えるようになる。
 そして、青森県に入ってから2つの小さな奇跡が起きるのだが、それは偶然ではなく自身で呼び寄せたものとしか考えられない。
 この挑戦は決してクレイジーでも無謀でもない。やり残したことは何もないと言い切る大学生活の豊かな経験の中で育まれたコミュニケーション能力、徹底した自己管理、イメージトレーニング、そして広がり続ける支援の人の輪。その中で活力をもらい、逆に与え続けながら、読者を巻き込みつつゴールを迎える。
 人はイメージ以上のことをやり遂げることができたのだ。
 これだけのチャレンジを常人はとても真似することはできない。しかし、月並みな表現だが、私たちは人生というゴールの見えない自分との戦いの中で、何度も壁にぶつかり、希望を失い、将来のポジティブなイメージを描くことができないまま疲弊を重ねている。
 その中で安易に癒しを求めるのではなく、自らへの限界に挑戦して打ち勝つことで、自分自身にも周囲の人にも新たな刺激を与え続けているこの若き「走る哲人」の生き方に、率直に学ぶべきところが大きいのである。

(これは某サイトの書籍プレゼントに当選して書いた宿題の書評なのですが、根拠のない間違った語句が挿入されるなどジャーナリズムとはかけ離れた校正が無断でなされていたので、そちらの方は無視して当ブログに掲載しました)

これで「ベストを尽くした」? 胎盤剥離の妊婦に胃薬、死産

2006年05月09日 | こども・小児科
GWを挟んでサボっていましたが、ぼちぼち復活します。福島の産科医逮捕事件のその後についてもまたチェックしていきたいと思いますが、一連の流れの中で出てきたこの医療事故の記事、これこそ許せません。これは大野病院の一件とは全く違います。

救急医療:医師不足の2次病院、腹痛に胃薬…死産

9か月の妊婦で激しい腹痛なら、赤ちゃんの命の危機が迫る緊急事態を「絶対に」考えなくてはいけないのに、たとえ何科の医師であろうと、産科医が一人だろうが不在だろうが、胃薬を出して帰すなどということは犯罪行為に近い。心情的には、こういう医師を逮捕するのなら話はわかるのだが、どういうわけだが「医師不足」を強調して医療体制の不備が原因のごとく書かれている。記者の頭の中はどうなっているのか。大野病院の医師を責め立てておいて、この医師を擁護するとは。

繰り返しますが、これは体制の問題ではない。自院で妊婦健診を受けている妊婦の早剥に対応できないのなら産科診療をやめるべきだし、この時自院で対応できなかったのであれば、最低限他院に送らなければいけない。何もせずに帰すなど言語道断で、失われた赤ちゃんの命に対して「お気の毒だった」ですまされる話ではない。