この点については少々分かりにくい(それが向こうの狙い目なのかも)。
以前にも書きましたが、喫煙や受動喫煙という「日常的にありふれたリスク(!)」と比較することで、放射線被曝の健康被害をできるだけ小さく、心配ないものに見せようとする、一種の「詭弁(きべん)」と言って差し支えありません。
あの山下俊一センセイや中川恵一センセイもこの論法を使っていると言えば、むしろわかりやすいでしょう。
中川センセイは下記の記事で「100mSvで0.5%の増加は受動喫煙と同じ」と言っていますが、実はそれ自体が大きな間違いで、受動喫煙の死亡リスク増加は10-20%であることがわかっています。
(それだけをとらえれば、受動喫煙よりもずっと心配ないということになってしまいますが)
この場合の、100mSv被曝や受動喫煙は「生涯」の累積です。
年1mSvなら100年、2mSvなら50年といった具合。
しかも、彼らの根拠は「外部被曝1回限り」の広島長崎モデルで、低線量で長期にわたる内部被曝という今回のような状況は考慮されていませんので、その点でも鵜呑みにすることはできません。
事実は「喫煙や受動喫煙は日常的で途方もなく高いリスク」であり、「放射線被曝(生涯・外部被曝)の100mSvで0.5%(10万人中500人)、10mSvで0.05%(10万人中50人)の増加」は、子どもでリスクが数倍上がることを考慮すれば、とても容認できるレベルではありません。
ですから、標題にあるように、親が喫煙しながら子どもの被曝を心配するのは全くのナンセンスだということになるのです。
「うちは屋外で吸っているから大丈夫」というのも実は全然大丈夫ではありません。吐き出す息や衣服・身体から出る有害物質は、子どもの身体に確実に取り込まれています。
たとえて言うのも変ですが、100mSvは有害で50mSvなら安全かといった議論と同じ意味です(リスクのレベルは違いますが)。
今年の5月31日の世界禁煙デーにあたって、青森県タバコ問題懇談会では「深刻化する青森県の受動喫煙防止対策の遅れ」という声明を発表しましたが、この問題に関する部分だけを抜粋して紹介しておきます。(私が書いた文章です)
■ 注意! 放射線による健康被害を喫煙や受動喫煙と比べることは二重の意味で誤解を招きます(2011年5月30日)
http://ameblo.jp/aomori-aa/entry-10908278347.html
現在、福島第一原発の事故により莫大な放射性物質が環境中に放出され、広い地域で住民の健康被害の懸念が広がっています。その中で、放射線の健康への影響を喫煙や受動喫煙と比較して報道されることがありますが、これは国民に対して放射線被曝のリスクのみならず、喫煙や受動喫煙のリスクまで「日常的なもので大したことない」と思わせるような、二重の意味で誤解を招く危険性が高いので注意が必要です。以下に一般的に伝えられている数値を引用してみます。
放射線(急性・外部被曝) 1000mSv で全固形がんが 1.6倍増加(成人):喫煙と同程度
放射線(生涯・外部被曝) 100mSv で 0.5% のがん死増加(成人) =500人 / 10万人
喫煙(長期) 約半数(50%)が喫煙による疾患で死亡 =5万人 / 10万人
受動喫煙(日常的) 約10?20% が受動喫煙による疾患で死亡 =1-2万人/10万人
有害物質の環境基準は「10万人あたり1人の死亡」であり、アスベストの場合、敷地境界基準の「10万人あたり7人の超過死亡」を超えると懲役刑になります。100mSv の被曝はアスベストの基準を70倍も上回り、受動喫煙は1500倍にも達する高いリスクとなります。喫煙や受動喫煙という途方もなく危険な有害物質と比べて考えること自体が間違いだと言えます。
■ 問題の記事の例
「人体への影響100ミリシーベルトが目安」「喫煙や飲酒のほうが心配」東大放射線科・中川恵一准教授
2011.6.8
http://sankei.jp.msn.com/life/news/110608/bdy11060822250001-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/life/news/110608/bdy11060822250001-n2.htm
「ただちに健康への影響はない」と言われても、目に見えないだけに、健康被害が心配になる放射性物質。東大医学部付属病院で放射線治療を担当し、茨城県東海村のJCO臨界事故で被曝(ひばく)した作業員の治療にも携わった中川恵一准教授は、被曝による発がんリスクについて、「日本人は、2人に1人が、がんになる世界一のがん大国。喫煙や飲酒の方がよほど危険だ」と語り、過度の心配をする必要はないという。
中川准教授によると、被曝が人体に与える影響は「100ミリシーベルトがひとつの目安」。100ミリシーベルトの放射線を浴びた場合、がんが原因で死亡するリスクは最大約0.5%上昇。野菜嫌いの人や受動喫煙と同程度だ。
運動不足や塩分の取りすぎは200~500ミリシーベルト、喫煙や毎日3合以上飲酒した場合は2000ミリシーベルト以上の被曝に相当。「タバコや飲酒による発がんリスクは、被曝と比べものにならないほど高い。この機会にがん対策全体を見直すべきだ」という。
もともと自然界から年間数ミリシーベルトを被曝している人間の細胞には、放射線で傷つけられたDNAを回復させる機能が備わっている。
長期間にわたって受ける放射線量が100ミリシーベルト以下ならば、ほとんどが修復される。実際、広島・長崎のデータでも、100ミリシーベルト以下で発がんが増えたというデータはない。ただ、一部の原発作業員のように、短期間に200ミリシーベルト以上を被曝するようなケースについては、「年間20ミリシーベルトを10年浴びたのに比べ、2~10倍高いリスクとなる可能性がある」と警鐘を鳴らす。
依然、風評被害が広がる農水産物については「国の食品衛生法に基づく基準値はICRPなどの国際基準を踏まえ、食品ごとに放射性物質の摂取上限が厳しく設定されている。原発周辺に自生する山菜などを食べるのは危険だが、流通しているものについては基準値を下回っており、問題ない」と強調。「汚染を気にして野菜や魚の摂取が減ったり、被曝を恐れてがん検診を受けなかったり、ストレスや運動不足の方ががんのリスクを高める」とする。
「半減期が短い放射性ヨウ素はほぼ消えた。今、大気中に放射性物質はほとんどない。それ以降は、3月15日までに放出され、雨に溶けて土の表面に蓄積したセシウムからのガンマ線が被曝の原因。公共事業による土壌改良などが必要だ」と話している。
以前にも書きましたが、喫煙や受動喫煙という「日常的にありふれたリスク(!)」と比較することで、放射線被曝の健康被害をできるだけ小さく、心配ないものに見せようとする、一種の「詭弁(きべん)」と言って差し支えありません。
あの山下俊一センセイや中川恵一センセイもこの論法を使っていると言えば、むしろわかりやすいでしょう。
中川センセイは下記の記事で「100mSvで0.5%の増加は受動喫煙と同じ」と言っていますが、実はそれ自体が大きな間違いで、受動喫煙の死亡リスク増加は10-20%であることがわかっています。
(それだけをとらえれば、受動喫煙よりもずっと心配ないということになってしまいますが)
この場合の、100mSv被曝や受動喫煙は「生涯」の累積です。
年1mSvなら100年、2mSvなら50年といった具合。
しかも、彼らの根拠は「外部被曝1回限り」の広島長崎モデルで、低線量で長期にわたる内部被曝という今回のような状況は考慮されていませんので、その点でも鵜呑みにすることはできません。
事実は「喫煙や受動喫煙は日常的で途方もなく高いリスク」であり、「放射線被曝(生涯・外部被曝)の100mSvで0.5%(10万人中500人)、10mSvで0.05%(10万人中50人)の増加」は、子どもでリスクが数倍上がることを考慮すれば、とても容認できるレベルではありません。
ですから、標題にあるように、親が喫煙しながら子どもの被曝を心配するのは全くのナンセンスだということになるのです。
「うちは屋外で吸っているから大丈夫」というのも実は全然大丈夫ではありません。吐き出す息や衣服・身体から出る有害物質は、子どもの身体に確実に取り込まれています。
たとえて言うのも変ですが、100mSvは有害で50mSvなら安全かといった議論と同じ意味です(リスクのレベルは違いますが)。
今年の5月31日の世界禁煙デーにあたって、青森県タバコ問題懇談会では「深刻化する青森県の受動喫煙防止対策の遅れ」という声明を発表しましたが、この問題に関する部分だけを抜粋して紹介しておきます。(私が書いた文章です)
■ 注意! 放射線による健康被害を喫煙や受動喫煙と比べることは二重の意味で誤解を招きます(2011年5月30日)
http://ameblo.jp/aomori-aa/entry-10908278347.html
現在、福島第一原発の事故により莫大な放射性物質が環境中に放出され、広い地域で住民の健康被害の懸念が広がっています。その中で、放射線の健康への影響を喫煙や受動喫煙と比較して報道されることがありますが、これは国民に対して放射線被曝のリスクのみならず、喫煙や受動喫煙のリスクまで「日常的なもので大したことない」と思わせるような、二重の意味で誤解を招く危険性が高いので注意が必要です。以下に一般的に伝えられている数値を引用してみます。
放射線(急性・外部被曝) 1000mSv で全固形がんが 1.6倍増加(成人):喫煙と同程度
放射線(生涯・外部被曝) 100mSv で 0.5% のがん死増加(成人) =500人 / 10万人
喫煙(長期) 約半数(50%)が喫煙による疾患で死亡 =5万人 / 10万人
受動喫煙(日常的) 約10?20% が受動喫煙による疾患で死亡 =1-2万人/10万人
有害物質の環境基準は「10万人あたり1人の死亡」であり、アスベストの場合、敷地境界基準の「10万人あたり7人の超過死亡」を超えると懲役刑になります。100mSv の被曝はアスベストの基準を70倍も上回り、受動喫煙は1500倍にも達する高いリスクとなります。喫煙や受動喫煙という途方もなく危険な有害物質と比べて考えること自体が間違いだと言えます。
■ 問題の記事の例
「人体への影響100ミリシーベルトが目安」「喫煙や飲酒のほうが心配」東大放射線科・中川恵一准教授
2011.6.8
http://sankei.jp.msn.com/life/news/110608/bdy11060822250001-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/life/news/110608/bdy11060822250001-n2.htm
「ただちに健康への影響はない」と言われても、目に見えないだけに、健康被害が心配になる放射性物質。東大医学部付属病院で放射線治療を担当し、茨城県東海村のJCO臨界事故で被曝(ひばく)した作業員の治療にも携わった中川恵一准教授は、被曝による発がんリスクについて、「日本人は、2人に1人が、がんになる世界一のがん大国。喫煙や飲酒の方がよほど危険だ」と語り、過度の心配をする必要はないという。
中川准教授によると、被曝が人体に与える影響は「100ミリシーベルトがひとつの目安」。100ミリシーベルトの放射線を浴びた場合、がんが原因で死亡するリスクは最大約0.5%上昇。野菜嫌いの人や受動喫煙と同程度だ。
運動不足や塩分の取りすぎは200~500ミリシーベルト、喫煙や毎日3合以上飲酒した場合は2000ミリシーベルト以上の被曝に相当。「タバコや飲酒による発がんリスクは、被曝と比べものにならないほど高い。この機会にがん対策全体を見直すべきだ」という。
もともと自然界から年間数ミリシーベルトを被曝している人間の細胞には、放射線で傷つけられたDNAを回復させる機能が備わっている。
長期間にわたって受ける放射線量が100ミリシーベルト以下ならば、ほとんどが修復される。実際、広島・長崎のデータでも、100ミリシーベルト以下で発がんが増えたというデータはない。ただ、一部の原発作業員のように、短期間に200ミリシーベルト以上を被曝するようなケースについては、「年間20ミリシーベルトを10年浴びたのに比べ、2~10倍高いリスクとなる可能性がある」と警鐘を鳴らす。
依然、風評被害が広がる農水産物については「国の食品衛生法に基づく基準値はICRPなどの国際基準を踏まえ、食品ごとに放射性物質の摂取上限が厳しく設定されている。原発周辺に自生する山菜などを食べるのは危険だが、流通しているものについては基準値を下回っており、問題ない」と強調。「汚染を気にして野菜や魚の摂取が減ったり、被曝を恐れてがん検診を受けなかったり、ストレスや運動不足の方ががんのリスクを高める」とする。
「半減期が短い放射性ヨウ素はほぼ消えた。今、大気中に放射性物質はほとんどない。それ以降は、3月15日までに放出され、雨に溶けて土の表面に蓄積したセシウムからのガンマ線が被曝の原因。公共事業による土壌改良などが必要だ」と話している。