踊る小児科医のblog

青森県八戸市 くば小児科クリニック 感染症 予防接種 禁煙 核燃・原発

子どもの肥満度の計算 エクセルのシートをアップ(付録 BMI計算)

2013年04月24日 | こども・小児科
子どもの肥満度の計算は、平成18年(2006年)より「平成12年(2000年)の値」を基準とした計算方法に変わっています。

身長(cm)
体重(kg)

標準体重(kg)= a × 身長 - b
肥満度(%)=(体重 - 標準体重)× 100/標準体重

自動計算用のエクセルのシートを掲載しましたので、利用したい方はクリックしてダウンロードしてお使い下さい。

http://www.kuba.gr.jp/omake/tool/himando.xls

四角の空欄に身長・体重を入力すると標準体重と肥満度が表示されます。
(最初に入っている数字はサンプルですので消して下さい)

参考値として、12歳以上にはBMIも表示されるようにしておきました。

BMI =(体重 × 10000)/(身長 × 身長)
BMI22(kg)= (22 × 身長 × 身長)/10000

通常、子どもには肥満度を、大人にはBMIを用います。
例えば、大人の方は、自分の身長と体重を17歳の欄に入れてみると、BMI22と17歳の標準体重とで違いがあることがわかると思います。

肥満度および発育曲線について詳しくは下記のページをご覧下さい。

パーセンタイル発育曲線とは?
「児童生徒の健康診断マニュアル(改訂版)」(2006年・日本学校保健会)より
http://www.shobix.co.jp/paru/hyo.html

子どもの健康管理プログラム(日本学校保健会推薦)
http://www.shobix.co.jp/paru/
3,500円(消費税、発送費別)

『パン屋再襲撃』と『再びパン屋を襲う』を少しだけ読み比べてみる 文章比較5つ

2013年04月19日 | ART / CULTURE
新作『色彩を…巡礼の年』が話題の村上春樹だが、少し前に発売された『パン屋を襲う』(「パン屋を襲う」+「再びパン屋を襲う」)を、手が加えられる前の「パン屋襲撃」「パン屋再襲撃」と読み比べてみました。

Bookmeterへの短評

『パン屋再襲撃』と『パン屋を襲う』を少しだけ読み比べてみた。確かにいま読めば『パン屋再襲撃』よりも『パン屋を襲う』の方が感覚的にしっくりくる。村上春樹氏が手直ししたいと思った感覚と一緒にこの28年を共有したと思いたい。ところで『パン屋再襲撃』の前の『パン屋襲撃』オリジナル版は読んだことなかったのか?と疑問に思ったが、『夢で会いましょう』に『パン』として収録されている。これは読んだはずだが、さすがに覚えてない。。全文『パン屋を襲う』と読み比べてみた。ただし、タイトルは『パン屋再襲撃』に慣れ親しんだためか『パン屋を襲う』ではまだ違和感があるし、このカット・メンシックさんのイラストも『眠り』同様に素晴らしいけど、佐々木マキさんの表紙(これは種市の潜水夫?)と比較するのは意味がない(少なくとも今の村上春樹氏にあわせて考えれば最後の喫煙シーンを絵に描くことはなかったはず)。とにかく、28年もの歳月が経ったのだ。この夫婦が『ねじまき鳥クロニクル』の世界に繋がっていくとの作者自身の示唆は新鮮だった。

『パン屋再襲撃』と『再びパン屋を襲う』で文章がどのように変わったか、5つだけ抜粋して紹介しておきます。

A) 『パン屋再襲撃』
B) 『再びパン屋を襲う』

A) パン屋襲撃の話を妻に聞かせたことが正しい選択であったのかどうか、僕にはいまもって確信が持てない。
B) パン屋を襲ったときの話を妻に聞かせたことが正しい選択だったのかどうか、いまもって確信が持てない。

A) それは理不尽と言っていいほどの圧倒的な空腹感だった。
B) それは理不尽なまでに圧倒的な空腹感だった。

A) 我々の生活はひどく忙しく、立体的な洞窟のようにごたごたと混みいっており、とても予備の食料のことまでは気がまわらなかった。
B) 我々の生活はひどく忙しく、立体的な洞窟のように前後左右に入り組んでいて、冷蔵庫の中身まではとても気がまわらなかった。

A) 妻のそのような意見(乃至はテーゼ)はある種の啓示のように僕の耳に響いた。
B) 伴侶のそのような意見(あるいはテーゼ)はある種の啓示として僕の耳に響いた。

A) 彼女にそう言われると、僕には、自分の今抱えている飢餓が国道沿いの終夜レストランで便宜的に充たさせるべきではない特殊な飢餓であるように感じられたのだ。
B) 彼女にそう言われると、自分の今抱えている飢餓は国道沿いの終夜レストランなんかで便宜的に充たさせてはならない特殊な飢餓であるように感じられた。

「風疹の流行」はいま現実に起きている危機 赤ちゃんを救うのはワクチン以外にはない twitterまとめ

2013年04月17日 | 予防接種
「院内報2・3月号より」MR(麻疹・風疹)ワクチンは、中1・高3に5年間実施していた3・4期が終了しました。1歳と入学前の1・2期は従来通りです。現在、首都圏の成人男性を中心に風疹の流行が拡大しており、先天性風疹症候群も増加しています。青森県には流行の波は押し寄せてませんが、それだけ感染する可能性のある人が多く残っていると言うこともできます。行政の補助がないので有料になりますが、MR(または風疹ワクチン)を2回接種していない23歳以上の世代の方には男女とも接種をお勧めします。

4月16日 twitterまとめ

風疹の流行(小解説)①今年3480人というのは全国での全患者数。6割は首都圏。インフルエンザなんかで出てくるのは定点医療機関あたりの数字で、実際には百万~千万という数であり、ケタが全く違う。
posted at 16:45:32

②流行の主体は大人の男で、会社で1人、接触者が2週間後にまた1人と感染していても、普通の人が周囲に流行を感じられないのは当然。東京で1万人に1人。内科医で数人診たかという程度。
posted at 16:45:42

③風疹 発生動向調査 http://www.nih.go.jp/niid/ja/rubella-m-111/700-idsc/2131-rubella-doko.html ←速報グラフ
posted at 16:46:18

④神戸市では1年で風疹患者89名という流行の中で、先天性風疹症候群が2名も発生している。http://www.nih.go.jp/niid/ja/rubella-m-111/rubella-iasrs/3398-pr3984.html
posted at 16:46:29

⑤風疹も麻疹と一緒に制圧・根絶を目指しているが、麻疹の目標は年間120人。風疹の数千~1万人というレベルは桁違い。先天性風疹症候群や妊娠中絶が増加するのは目に見えている。
posted at 16:48:20

⑥先天性風疹症候群患者数 2000年より 1 1 1 1 10 2 0 0 0 2 0 1 5 3+。流行が拡大した2012年で5人、それを数倍上回る2013年は3ケ月でもう3人。http://www.nih.go.jp/niid/ja/rubella-m-111/700-idsc/3158-rubella-crs-20130130.html
posted at 17:01:43

⑦流行収束の条件:1)みんな罹ってしまう、2)季節性があるので収まるのを待つ、3)ワクチン接種。1)は感受性者(罹ってないしワクチンによる抗体もない人)が莫大な人数なので1年や2年では終わらない。2)も完全には収束せずまた増える。要するに、3)のワクチン接種しかない。
posted at 17:09:08

↑無論、1)2)は先天性風疹症候群が大量に発生することになる。

23歳以上の世代は、もし風疹を1回接種していても、風疹単独ではなく麻疹・風疹(MR)ワクチンで2回目を。 風疹の予防接種、1回受ければ大丈夫?http://www.nhk.or.jp/seikatsu-blog/400/151620.html
posted at 17:12:37

NHKストップ風疹 @nhk_stopfushin さんをフォローしました。「クローズアップ現代」の放送を今月中に予定しているとのこと。
posted at 17:19:31

NHK NEWS WEB ストップ風疹 ~赤ちゃんを守れ~ http://www.nhk.or.jp/news/stopfushin/
posted at 17:23:35

風疹単独ワクチンは入手困難なので、もし希望されても麻疹・風疹(MR)ワクチンになります。
posted at 17:32:57

「風疹の流行なんてない」「周囲に罹った人はいない」「誇大(虚偽)報道」とか言ってる人が、どうも脱原発の人たちとオーバーラップしてるみたい。頭が痛い。だから簡単に批判されちゃうんだって。あれもこれも。
posted at 17:35:56

なぜ「放射能から子どもを守れ」と言ってる人が「風疹から赤ちゃんを守れ」に反対するのか。「政府・メディア・医者を信用するな」「ワクチンは害悪」。結局リスク比較の問題になるが、原発事故でリスク比較が権力側に都合良く利用されたために、リスク比較自体を合理的に受け止める素地が失われた。
posted at 17:58:55

鳥インフルエンザA/H7N9 リンク集

2013年04月15日 | 新型インフルエンザ
パンデミックアラート http://pandemicinfores.com/
徒然日記 http://pandemicinfores.com/diary.html
同 4月-2 http://pandemicinfores.com/diarytimeline/4-2.html
H7N9鳥インフルエンザ経過と問題点のまとめ
http://pandemicinfores.com/H7N9summary.html

国立感染症研究所 インフルエンザA(H7N9)
http://www.nih.go.jp/niid/ja/diseases/a/flua-h7n9.html
インフルエンザA(H7N9)ウイルスのヒト感染に対するWHOのリスク評価 2013 年4月13日仮訳
http://www.nih.go.jp/niid/ja/diseases/a/flua-h7n9/2273-idsc/3439-riskassessment-h7n9.html
WHO:中国における人での鳥のインフルエンザウイルスA(H7N9)感染症に関するQ&A 2013年4月5日更新
http://www.nih.go.jp/niid/ja/diseases/a/flua-h7n9/2273-idsc/3394-h7n9-qa.html

中国で発生しているインフルエンザA(H7N9)について 厚生労働省検疫所 FORTH
http://www.forth.go.jp/news/2013/04041512.html

東京大学医科学研究所アジア感染症研究拠点:中国感染症情報:鳥インフルエンザウイルスH7N9関連情報2013
http://www.rcaid.jp/news/avianflu.htm

WHO: Disease Outbreak News
http://www.who.int/csr/don/en/
WHO: Human infection with influenza A(H7N9) virus
http://www.who.int/influenza/human_animal_interface/influenza_h7n9/en/
Number of confirmed human cases for influenza A(H7N9) reported to WHO
http://www.who.int/influenza/human_animal_interface/influenza_h7n9/Data_Reports/en/

CDC: Avian Influenza A (H7N9) Virus
http://www.cdc.gov/flu/avianflu/h7n9-virus.htm

Googleニュースで「鳥インフルエンザ」「H7N9」を検索

人民網日本語版(人民日報) http://j.people.com.cn/

(4/15版)中国の鳥インフルエンザA/H7N9 「人-人感染」は限定的 野鳥から広い地域へ拡大

2013年04月15日 | 新型インフルエンザ
この暫定的・個人的なまとめは、報道やネット上の情報から現時点での判断を記したものですが、情報に不確かな点がまだ多いことに加えて、一小児科医の判断ですので誤りがある可能性があることを最初にお断りしておきます。

このページは書き換えずに、変更する必要があるときにはブログの新しいentryとして追加更新していく予定です。
(情報を追加更新していく中で、長くなり重複も多くなってしまいました)

(4/10版との主な違いは、限定的な「人-人感染」を示唆する例の存在、不顕性感染の可能性、野鳥から広い地域に拡散という推測が確認されつつあるという3点です)

ポイントは、1)「人-人感染」の有無(感染力)、2)軽症例の有無(病原性)、3)野鳥の調査結果の3つですが、前二者はあっても限定的で、野鳥の行方はしばらくつかめそうにありません。

ウイルスの変異の情報には今後も注意が必要。

感染ルートは依然として未解明だが、「野鳥→家禽→人」でほぼ確定的。
豚が介在した可能性もまだ否定されていない。
ただし、いずれも証拠はなく、感染ルートの解明は難しそう。

現在のような感染者が増える状況はもうしばらく続き、地域も拡大していくものと思われますが、日本国内で輸入例ではなく鳥からの直接の感染例が出る可能性は小さい。(ゼロとは言えない)

■ 感染者数・死亡例

4月15日現在、感染者は61人で、13人が死亡、9人が軽症(うち1人が治癒、1人は症状なしとの情報です。
残りの38人の多くは重症のようですが詳細は未確定。
(11日のWHO発表では38人中10人死亡、19人重症、9人軽症)

4/15 61人中13人死亡 21.3%
4/14 60人中13人死亡 21.7%
4/13 44人中11人死亡 25.0%
4/12 43人中11人死亡 25.6%
4/12 38人中10人死亡 26.3%
4/11 35人中 9人死亡 25.7%
4/10 33人中 9人死亡 27.3%
4/09 28人中 9人死亡 32,1%
4/09 24人中 7人死亡 29.2%
4/07 21人中 6人死亡 28.6%

61人中13人が死亡(死亡率 21.3%)という数字は、当初より低下したとは言えまだ高い割合だが、これは中等症・軽症の感染者が少数しか診断がついていないことによる可能性が高い。
→「人から人への感染」および「病原性」

13日から15日にかけて北部の北京市で2例、内陸部の河南省で1例感染者が確認しており、今後も調べていくと中国の広い地域で発見される可能性が高い。

■ 人から人への感染の有無

WHOによると、1000人以上の接触者が経過観察されており、早期に確定された患者の接触者で症状があった人の調査が進められている。
現時点では、人から人への感染が継続しているという証拠はない。

WHOは9日、「2家族で人から人への感染が疑われる事例がある」ことを明らかにした。
13日には上海で夫婦間の感染例が確認されている(2家族のうちの1つと思われる)。
これだけで人-人感染の直接の証拠とは断定出来ず、その周囲への感染の拡大は確認されていない。

限定的な家族間感染があったとしても、それ以上拡大していなければ、過剰反応すべきではない。

インフルエンザは一般に感染力が強く、潜伏期も2~3日で、症状がある期間が1週間くらいなので、10日くらい観察すれば大体の傾向は判断できる。
既に、4月10日で最初の発表から10日が経過している。

人から人への感染の有無を確かめるためには、感染者同士の接触の有無、周囲の接触者や医療関係者の経過観察と共に、軽症者の存在も間接的な判断材料となる。

人から人への感染があるのなら、どんなに病原性が強くても、中等症や軽症で診断されないまま治っている人がピラミッド型に相当数存在するはず。
抗体検査や症状の有無などを調査すれば判断できる。
軽症者が少数しか確認されていない現状では、人から人への持続的な感染は否定的。

北京の無症状の4歳男児例(7歳女児の両親が鶏を販売した家庭)は、軽症者や感染しても発症しない不顕性感染が相当数いる可能性を示唆している。 ◎重要
発症者周囲の抗体保有状況のデータが出てこないと判断できない。

今後、新たに感染者の体内で別の変異が起こるといったことがなければ、現時点では人から人への感染性は弱く、限定的なものと推測される。

■ 遺伝子解析

遺伝子の解析で、混合した3種類のウイルスの遺伝子がいずれも鳥インフルエンザ由来だというのは良いニュースと言えるだろう。ブタの体内で鳥とヒトのウイルスとが混合してくると、2009年のようにパンデミックの恐れが出てくるが、今回のは正真正銘の鳥インフルエンザウイルス。豚が介在したという情報はない。

ただし、国立感染症研究所の分析で、このウイルスの遺伝子が人に感染しやすく変異していることが解明されているので、鳥から人への感染は今後も続く可能性はある。

上記のように患者の体内で別の変異が起きて人から人への感染性が獲得される可能性に注意が必要。

3種類の遺伝子が浙江省、韓国、長江より北という別々の地域の野鳥ウイルスに由来しており、このH7N9が野鳥の間で変異して広がり、渡り鳥または家禽を介して人に感染したものと推測できる。

■ 「鳥インフルエンザ」か「新型インフルエンザ」か

現時点で人から人への継続的な感染が認められていない状況では、感染者数や死者数がどれだけ増え続けても、「鳥インフルエンザ」に人が感染しているという判断に変わりはなく、鳥インフルエンザが変異して人から人への感染性を獲得した「新型インフルエンザ」の流行ではない。

一部のメディアで当初「新型鳥インフルエンザ」という用語を用いているのを目にしたが、「鳥インフルエンザ」と「新型インフルエンザ」の違いをよく理解していない人に誤解を与える恐れがあるので使わない方が良いだろう。

■ 家禽(ニワトリ、ハト、ウズラ、アヒルなど)

この点についての情報が錯綜している。

これまで、市場のハト、ニワトリ、ウズラなどでウイルスが検出され、上海市では約10万羽が殺処分されたと伝えられている。
一方で、家禽から7千以上のサンプルを調査した結果、H7N9は検出されていないという情報も報道されている。

感染者の中にも、家禽との接触が明らかではない人も含まれているようで、市場や養鶏場だけではなく、家庭で飼っている鶏や野鳥など、広い地域で複数、多数の感染源があるものと推測される。

前記の通り、豚が介在した可能性もまだ否定されていない。

■ 野鳥(ガン、カモなど)

これが一番重要なポイント。

鳥に対する病原性がなくて野鳥(渡り鳥)の間で広がっているなら手の打ちようがない。
(これだけ人の感染者が出ているなら既に相当前に変異が起きて広まっていたと推測するのが普通)

野鳥の調査も実施中だと伝えられているが、その情報がまだほとんど出て来ていない。
4月10日の報道では、検査した野鳥からウイルスは検出されていないとのことだが、今後の情報に注意が必要。

弱毒性ゆえに鳥の内臓でウイルスが増殖し血中からは検出されない、という難点もあるようだ。

4月には既に渡り鳥は北に帰ったと報じられおり、追いかけてシベリアを調査する必要があるはず。

「遺伝子」のところに書いたように、別々の地域の野鳥由来の3種類のウイルスが混合してることから、各地の野鳥がシベリアなどで交雑して変異し、それが中国に戻ってきたのではないか推測される。

だとしたら、中国の別の地域だけでなく、日本を含む東アジアにも広がっている可能性もあるのだが、当初限局した地域で発見された理由はわからない。

4月13日には北京市で両親が鶏の販売に従事している7歳女児で感染が確認され、14日に河南省、15日に北京市で4歳男児(無症状)で感染が確認されている。
やはり、中国の広い地域で野鳥(渡り鳥)から鶏などの家禽へウイルスが広まっていた可能性が高い。

日本でも野鳥の調査を開始すべきだと思うが、なぜか誰もそのことには触れようとしない。
(実際には継続的なモニタリング調査は行われているはず)

なんとなく、原発安全神話や原発事故報道を思い起こさせる。

■ 病原性は

鳥に対する病原性は低く(低病原性鳥インフルエンザ)、鳥の間で症状のないまま広がって人に感染している。
問題は人に感染した場合の病原性の程度。

61人中13人が死亡という高い割合をみると人に対する病原性が強そうに思えるかもしれないが、分母となる全体の感染者数が把握できていないため、まだ判断はできない。

「感染者数は少数にとどまり、感染すると高い割合で重症化する」可能性と、「診断されていない中等症・軽症者が多数いて、そのうちの一部だけが重症化している」可能性という二極間のどこに位置するのかが問題だが、これまでの情報からどちらかというと前者(高い頻度で重症化)に近いのではないかと推測される。

今後、軽症者の有無、抗体保有状況の結果がわかれば、この判断は変わってくる可能性がある。

現時点では、いったん感染して発症するとある程度の高い割合で重症化すると考えた方が良さそうだ。

■ 感染力は

これまで人の間で明らかな流行を起こした A型インフルエンザはH3N2(A香港型)とH1N1(スペインかぜ、Aソ連型、H1N1pdm2009)の2種類しかない。
15年以上、高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)の監視が続けられてきたが、H5N1が変異してパンデミックを起こすことはないのではないかというのが最近の見方だ。

今回のH7N9が人に感染しやすく変異しているという点には注意が必要だが、このタイプが大きな流行を引き起こす可能性は低いだろうと第一報の時からずっと考えている。

これまでの調査からも、人から人への感染が持続的に起きている可能性は低く、現在のウイルスのまま新たな変異がなければ、パンデミックを心配する状況にはない。
(厚生労働省の担当者も「2段階前」と表現している)

準備はあくまで「次の変異」に備えてのもの。

小児に少なく高齢者に多いことは、直接接触の程度・頻度によるものと推測される。

■ 今後の予想は

このウイルスが家禽だけでなくガン・カモなどの野鳥の間で広く浸透しているとすれば、市場の鳥をいくら殺処分しても自然界から消え去ることはなく、手の打ちようがない。
(だから、ウイルスの在り処を調べることが最も重要)

渡り鳥が北に帰ってシベリアに集まり、中国からの渡り鳥も日本からの渡り鳥も交雑してウイルスが浸透し、変異も起こる。その鳥が、また中国や日本に戻ってくる。

その中で、今後も散発的な、あるいは集団的な人への感染が繰り返される可能性が高いと考えている。

ただし、このタイプのウイルスがずっと鳥の間で優位を保って生存し続けるかは全くわからない。新しい型や元からあった型に駆逐される可能性もある。その可能性の方が高いのではないかと予想してる。

いずれにせよ、野鳥の調査結果がまだほとんどわかっていない状況では、何も判断できない。

■ 謎や特殊要因は

感染源や感染経路の証拠がほとんどつかめていないこと。
これは、単純に市場、養鶏場、野鳥のどれかに限定できず、感染源が複数、多数存在することを示唆している。
これまで書いたように、野鳥から家禽へ広く浸透してる可能性が高く、非常に厄介。
ウイルス操作(バイオテロや実験での封じ込めミス)などの人為的要因も頭の片隅には残しているが、その可能性は低そうだ。

■ 新型インフルエンザ特措法適用?

この特措法が適用されるのは、「人-人感染」を起こす「新型インフルエンザ」または不明の感染症であって、さらに季節性インフルエンザよりも多数の死者を出すことが予想される場合に限定されます。メディアの当初の報道は法律の適用範囲を理解していないか無視した誤報。

現時点で、この「鳥インフルエンザ」対策の根拠とはなり得ません。
「鳥インフルエンザ」対策は従来の法律で行われます。

特措法自体は昨年成立して今年5月に施行予定だったので、それを1ケ月前倒しすることに大した意味はありません。
(法律自体に問題が多いのですがその議論はここではしません)

この「鳥インフルエンザ」に更に変異が起こって「新型インフルエンザ」になる可能性を想定して準備することは必要ですが、今回の「鳥インフルエンザ」対策のために特措法施行を早めたという一部の報道や政府発表は誤解を生むものです。

■ ワクチンの開発

国立感染症研究所は中国からウイルス株を入手でき次第、新たなワクチン開発に入ると発表している。米国でもワクチン開発の準備に入っている。ただし、これはあくまで人から人への感染が認められるようになった際に流行の拡大を抑制するための準備であって、現状の「鳥インフルエンザ」の段階でワクチンが接種されることはない。

(鳥に対するワクチンも開発されているらしいが情報ソース不明)

■ 抗インフルエンザ薬

抗インフルエンザ薬のタミフル、リレンザ、イナビル、ラピアクタは試験管内で効果がみられたという。実際に治療した際の効果については、ある程度まとまった成績が発表にならないとわからない。

■ 中国への渡航

出入国とも制限する必要はありません。市中でのマスクは「鳥インフルエンザ予防」としては意味がないかと。。
鶏や野鳥に近づかないのは当然として。

また入国者に対する検疫などをし始めないか懸念されます。
2009年のときは無意味な過剰反応で世界に恥をさらした。

そうは言ってもこの国(政府・メディア・国民)では簡単には済まない。
中国から帰国した人が1人でも熱を出したら、(たとえ関係のない発熱でも)政府もマスコミも大騒ぎになるはず。。
運悪くその犠牲者になりたくなかったら、中国への渡航は避けた方が良いだろう。。(もし可能なら)

早晩「第一例」が発見されることに。。
当然、これまでに既に侵入していた可能性も十分にある。。

そのような疑いのある患者さんが来院しないことを祈るしかない。。八戸の小児科開業医に受診する可能性は限りなく低いが。。

くば小児科クリニック
久芳康朗

2013.4.15(4.16一部修正・追加)

情報のソース→別にリンク集を掲載しています。

中国の鳥インフルエンザA/H7N9 「人-人感染」はあっても限定的 野鳥に蔓延の可能性も(4/10)

2013年04月11日 | 新型インフルエンザ
この暫定的・個人的なまとめは、報道やネット上の情報から現時点での判断を記したものですが、情報に不確かな点がまだ多いことに加えて、一小児科医の判断ですので誤りがある可能性があることを最初にお断りしておきます。

このページは書き換えずに、変更する必要があるときにはブログの新しいentryとして追加更新していく予定です。
(要点だけをまとめていくつもりが長くなり重複も多くなってしまいました)

ポイントは、「人-人感染」の有無、軽症例の有無、野鳥の調査結果ですが、前二者は現時点では否定的、野鳥の情報は全くわかりません。

感染ルートは依然として謎のままです。
ウイルスはどこから出て来てどう伝わったのか。

■ 感染者数・死亡例

4月10日現在、感染者は33人で、9人が死亡、3人が軽症(うち1人が軽快)という情報がありましたが、残りの21人の重症度の詳細は未確定のようです。
(9日のWHO発表では24人中7人死亡、14人重症、3人軽症)

33人中9人が死亡という数字は相変わらず高い割合だが、これは中等症・軽症の感染者がほとんど見つかっていないことによるものと思われる。
(→「人から人への感染」および「病原性」)

■ 人から人への感染の有無

WHOによると、600人以上の接触者が経過観察されており、早期に確定された患者の接触者で症状があった人の調査が進められている。現時点では、人から人に感染が続いているという証拠はない。

まだ断定はできないが、インフルエンザは一般に感染力が強く、潜伏期も2~3日で、症状がある期間が1週間くらいなので、10日くらい観察すれば大体の傾向は判断できるはず。
(4/10現在で最初の発表から10日が経過した)

人から人への感染の有無を確かめるためには、感染者同士の接触の有無、周囲の接触者の経過観察と共に、軽症者の存在を調査することが肝要。

人から人への感染があるのなら、どんなに病原性が強かったとしても、中等症や軽症で診断されないまま治っている人がピラミッド型に相当数存在するはず。検査診断はできなくても症状などの調査で判断できる。軽症者がほとんど確認されていない現状では、人から人への持続的な感染は否定的。

※追記→抗体検査でこの型に対する抗体保有の有無を調べられるようだ。

WHOは9日、「2家族で人から人への感染が疑われる事例がある」ことを明らかにした。実際に人から人へ感染したのか、共通の動物(鳥・豚など)から感染したのかもわからないし、他の感染症の可能性もあるだろう。

限定的な家族間感染があった可能性は否定できないが、それ以上続いていないのであれば、それだけで過剰反応すべきではない。

今後、新たに感染者の体内で別の変異が起こるといったことがなければ、現時点では人から人への感染性はないか、あっても限定的なものと推測される。

■ 遺伝子解析

遺伝子の解析で、混合した3種類のウイルスの遺伝子がはいずれも鳥インフルエンザ由来だというのは良いニュースと言えるだろう。ブタの体内で鳥とヒトのウイルスとが混合してくると、2009年のようにパンデミックの恐れが出てくるが、今回のは正真正銘の鳥インフルエンザウイルス。

ただし、国立感染症研究所の分析で、このウイルスの遺伝子が人に感染しやすく変異していることが解明されているので、鳥から人への感染は今後も続く可能性はある。

上記のように患者の体内で別の変異が起きて人から人への感染性が獲得される可能性は否定できない。

また、3種類の遺伝子は浙江省、韓国、長江より北という別々の地域の野鳥ウイルスに由来しており、このH7N9が野鳥の間で変異して広がり、渡り鳥または家禽類を介して人に感染したものと推測できる。

■ 「鳥インフルエンザ」か「新型インフルエンザ」か

現時点で人から人への継続的な感染が認められていない状況では、感染者数や死者数がどれだけ増えようとも、「鳥インフルエンザ」に人が感染しているという判断であり、鳥インフルエンザが変異して人から人への感染性を獲得した「新型インフルエンザ」の流行ではない。

一部のメディアで「新型鳥インフルエンザ」という用語を用いているのを目にしたが、「鳥インフルエンザ」と「新型インフルエンザ」の違いをよく理解していない人に誤解を与える恐れがあるので使わない方が良いだろう。

■ 家禽類(ニワトリ、ハト、ウズラなど)

この点についての情報が錯綜している。

これまで、市場のハト、ニワトリ、ウズラなどでウイルスが検出され、上海市では約10万羽が殺処分されたと伝えられている。
一方で、家禽類から7千以上のサンプルを調査した結果、H7N9は検出されていないという新たな情報も報道されている。

感染者の情報でも、家禽類との接触が明らかな人は一部に限られるようであり、市場や養鶏場だけが主な感染ルートだとは考えにくい状況にある。

■ 野鳥(ガン、カモなど)

これが一番重要なポイント。

鳥に対する病原性がなくて野鳥の間で広がっているなら手の打ちようがない。
(これだけ人の感染者が出ているなら既に相当前に変異が起きて広まっていたと推測するのが普通)

野鳥の調査も実施中だと伝えられているが、その情報がまだほとんど伝わっていない。
4/10の報道で、現時点では検査した野鳥からウイルスは検出されていないとのことだが、今後の情報に注意が必要。

「遺伝子」の項に書いたように、別々の地域の野鳥由来の3種類のウイルスが混合してることから、各地の野鳥がシベリアで交雑して変異し、それが中国に戻ってきたと考えられる。

だとしたら、中国の別の地域だけでなく日本にも既に侵入している可能性はあるのだが、この地域に限局して発生している理由はわからない。

日本でも野鳥の調査を開始すべきだと思うが、なぜか誰もそのことには触れようとしない。
(実際には継続的なモニタリング調査は行われているはず)

なんとなく、原発安全神話や原発事故報道を思い起こさせる。

■ 病原性は

33人中9人が死亡という高い割合をみると病原性が高そうに思えるかもしれないが、分母となる全体の感染者数が把握できていないため、まだ判断はできない。

感染者数は少数にとどまり、感染すると高い割合で重症化する可能性と、診断されていない中等症・軽症者が多数いて、そのうちの一部だけが重症化しているという2つの可能性があるが、これまでの情報から判断すると後者の可能性は低い。

依然として分母は不明だが、いったん感染して発症するとある程度の高い割合で重症化すると考えた方が良いだろう。

■ 感染力は

これまで人の間で明らかな流行を起こした A型インフルエンザはH3N2(A香港型)とH1N1(スペインかぜ、Aソ連型、H1N1pdm2009)の2種類しかない。
15年以上、高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)の監視が続けられてきたが、H5N1が変異してパンデミックを起こすことはないのではないかというのが最近の見方だ。

今回のH7N9が人に感染しやすく変異したという点には注意が必要だが、このタイプが大きな流行を引き起こす可能性は非常に低いだろうと第一報の時から考えていた。

これまでの調査からも、人から人への感染が持続的に起きている可能性は低く、現在のウイルスのまま新たな変異がなければ、パンデミックを心配する状況にはない。
準備はあくまで「次の変異」に備えてのもの。

■ 今後の予想は

このウイルスが家禽類だけでなくガン・カモなどの野鳥の間で広く浸透しているとすれば、市場の鳥をいくら殺処分しても自然界から消え去ることはなく、手の打ちようがない。
(だから、ウイルスの在りかを調べることが最も重要)

渡り鳥が北に帰ってシベリアに集まり、中国からの渡り鳥も日本からの渡り鳥も交雑してウイルスが浸透し、変異も起こる。その鳥が、また中国や日本に戻ってくる。

その中で、散発的な、あるいは集団的な人への感染が今後も繰り返される可能性は否定できない。

ただし、このタイプのウイルスがずっと鳥の間で優位を保って生存し続けるかは全くわからない。新しい型や元からあった型に駆逐される可能性もある。その可能性の方が高いのではないかと予想してる。

いずれにせよ、野鳥の調査結果がまだほとんどわかっていない状況では、何も判断できない。

■ 謎や特殊要因は

感染源や感染経路がほとんどわかっていないこと。
これは、単純に市場、養鶏場、野鳥のどれかに限定できず、感染源が複数、多数存在することを示唆している。
だとすると、非常に厄介。
ウイルス操作(バイオテロや封じ込めミス)などの人為的要因も頭の片隅には置いておいた方が良いかもしれない。

■ 新型インフルエンザ特措法適用?

メディアは法律の適用範囲をちゃんと確認しなさい。

この特措法が適用されるのは、「人-人感染」を起こす「新型インフルエンザ」または不明の感染症であって、さらに季節性インフルエンザよりも多数の死者を出すことが予想される場合に限定されます。

現時点で、この「鳥インフルエンザ」対策の根拠とはなり得ません。
「鳥インフルエンザ」対策は現行法で行われます。

特措法自体は昨年成立して今年5月に施行予定だったので、それを1ケ月前倒しすることは特に問題はありません。
(法律自体に問題が非常に多いのですがその議論はここではしません)

この「鳥インフルエンザ」に更に変異が起こって「新型インフルエンザ」になる可能性を想定して準備しておくことは大事ですが、今回の「鳥インフルエンザ」対策のために特措法施行を早めるという報道(あるいは政府発表)は明らかに間違っています。

■ ワクチンの開発

国立感染症研究所は中国からウイルス株を入手でき次第、新たなワクチン開発に入ると発表している。米国でもワクチン開発の準備に入っている。ただし、これはあくまで人から人への感染が認められるようになった際に流行の拡大を抑制するための準備であって、現状の「鳥インフルエンザ」の段階でワクチンが接種されることはない。

■ 抗インフルエンザ薬

タミフルやリレンザなどの抗インフルエンザ薬は試験管内で効果がみられたという。実際に治療した際の効果についてはまだ情報が伝わってきていない。

■ 中国への渡航

出入国とも制限する必要はありません。市中でのマスクはほとんど意味がない。
鶏や野鳥に近づかないのは当然として。

また入国者に対する検疫をし始めないか懸念されます。
2009年のときは無意味な過剰反応で世界に恥をさらした。

そうは言ってもこの国(政府・国民)では簡単にはいかない。
中国から帰国した人が1人でも熱を出したら、政府もマスコミも大騒ぎになるのだろう。
(そのような疑いのある患者さんが来院しないことを祈るしかない…八戸の小児科開業医に受診する可能性は限りなく低いが)

福島の甲状腺がん検査の患者数の推計式を感度・特異度でグラフ化してみました

2013年04月04日 | 東日本大震災・原発事故
少し前に書いた福島の甲状腺がん検査の患者数の推計式をグラフ化してみました

福島の甲状腺がん検査の患者数は? 感度・特異度により3人?12人?(応用できる一般式付き)
http://blog.goo.ne.jp/kuba_clinic/e/6a02a115e45411901a865df6cf4dcb34

有病者数を「x」、感度「s」、特異度「p」
検査陽性者数「m」、陰性者数を「n」とすると、
x=(pm-(1-p)n)/(s+p-1)
となる、ということを説明しました。
(この式を一見してわかることは感度よりも特異度の方が重要だということ)

ここで、感度と特異度によって有病者数(ここでは甲状腺がん患者数)を推計するグラフを書くために、(わかりにくくて申し訳ないが)変数を入れ替えて、有病者数xを「y」に、特異度を変数にして「x」とします。

x=(pm-(1-p)n)/(s+p-1)
  ↓
s=0.8, 0.85, 0.9, 0.95, 1.0
p→xに
m=10
n=66
x→yに

書き換えて数値を代入した式
y=(76x-66)/(x+s-1)

y=(76x-66)/(x-0.2) s=0.8
y=(76x-66)/(x-0.15) s=0.85
y=(76x-66)/(x-0.1) s=0.9
y=(76x-66)/(x-0.05) s=0.95
y=(76x-66)/x s=1.0


(クリックして別ウィンドウで拡大)

グラフは上から下に感度s=0.8, 0.85, 0.9, 0.95, 1.0の順
横軸(x)が特異度、縦軸(y)が甲状腺がん患者数の推計値

このグラフをみると、
感度・特異度がいずれも1.0の時は10人になる(当たり前か)
感度が低下すれば取りこぼしが多くなり患者数は増える(上の曲線)
特異度が0.99以上あれば10人かそれ以上となる(感度1.0はあり得ないので)
最初に議論の前提となった特異度0.9では偽陽性が多すぎるので考えにくい

細胞診で取り逃しはあっても正常細胞をがんと判定することは考えにくい(特異度0.99以上)ので、10人前後という数字の可能性が高い。

福島県外3市と福島県内の甲状腺検査結果の比較 考えられる推論2つはいずれも不可解

2013年04月03日 | 東日本大震災・原発事故
ネット上でいろいろと議論になっているようだが、フォローできてません。
ざっと眺めてみておおよその方向性を探ってみます。

結論だけ先に書いてしまいますが、

1)福島県内外で頻度が変わらず、他県でも同程度の頻度で甲状腺がんが発見されると仮定したら、全国で全小児にスクリーニングをしなくてはいけなくなる。無論そのようなことは必要ない。ならば福島での検査の意味がわからなくなる。

2)福島県内外で頻度が変わらず、福島県だけB判定に二次検査を実施してがんが発見され、他県では二次検査の必要がないとしたら、同じ割合であっても福島だけB判定から高頻度にがんが発見されるという意味になる。同じB判定でも福島だけハイリスクで他県ではローリスクだということ。しかしその根拠がない。

導かれる推論はいずれも不可解で納得できるものではありません。

専門家の言っている意味は、福島県内外で頻度が変わりないので、特にA2判定については全く心配がないということと、甲状腺がんとされた3~10例については、原発事故とは関係なく(←ここで検査結果に関わらず断定)検診によってたまたま早期に発見されたものだから心配ない(?)、ということらしい。

さてさて。。

(追記:5mmという区切りが甲状腺がんの有無を検出するには小さすぎて差がでない(福島の10症例はもっと大きい)可能性も否定できないが、子どもの甲状腺で5mmの結節があっても本人に知らせないし以後フォローなしという他県3市の扱いは混乱を助長しただけ。)

平成25年3月29日
福島県外3県における甲状腺有所見率調査結果についてhttp://www.env.go.jp/press/press.php?serial=16520

弘前市 1630人
甲府市 1366人
長崎市 1369人
合計  4365人

A 4321人 99.0%
A1 1852人 42.4%
A2 2469人 56.6%
B 44人 1.0%
C 0人 0%

結節5.1mm以上 44人
結節5.0mm以下 28人
嚢胞20.1mm以上 0人
嚢胞20.0mm以下 2482人
(人数に重複あり)

要するに、B判定の44人は全員5.1mm以上の結節(+)で、一部に20.0mm以下の嚢胞を伴う人もいた、ということ。

B判定の割合は
弘前 1.3%>甲府 1.1%>長崎0.6%と西に行く程低くなっているように見えるが、この人数でこの差を評価することは意味がないだろう。

一方、福島県内の調査は現在も進行中だが、年代・性別の県内外の比較は以下の記事に掲載されている。

しこりの割合本県低く 4県の子ども甲状腺検査(福島民報)
http://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2013/03/post_6779.html



甲状腺検査のこれまでの結果と今後の検査日程(放射線医学県民健康管理センター)
http://fukushima-mimamori.jp/thyroid/thyroid-info01.html

ここに掲載されている以下のPDF(2013年1月時点での集計)が最新版だろうか。
http://fukushima-mimamori.jp/thyroid/media/thyroid_status_201301.pdf

H23年度 38114人
A 99.5%
A1 64.2%
A2 35.3%
B 186人 0.5%
C 0人 0.0%

H24年度 94975人(2013年1月現在)
A 99.4%
A1 55.8%
A2 43.6%
B 548人 0.6%
C 1人 0.001%

----------------
福島県外3市(比較)
A 99.0%
A1 42.4%
A2 56.6%
B 44人 1.0%
C 0人 0.0%
----------------

A2,B,C判定の内訳

H23年度
結節5.1mm以上 184人
結節5.0mm以下 201人
嚢胞20.1mm以上 1人
嚢胞20.0mm以下 13382人

H24年度
結節5.1mm以上 538人
結節5.0mm以下 413人
嚢胞20.1mm以上 6人
嚢胞20.0mm以下 41433人
(人数に重複あり)

----------------
福島県外3市(比較)
結節5.1mm以上 44人
結節5.0mm以下 28人
嚢胞20.1mm以上 0人
嚢胞20.0mm以下 2482人
----------------

問題の甲状腺がん3名、残り7名もがんの可能性が高いという件については、こちらのブログに検討委員会の文字おこしが掲載されています。

第10回「県民健康管理調査」検討委員会2013.2.13 <質疑応答文字起こし・ほとんど全部>
http://kiikochan.blog136.fc2.com/blog-entry-2775.html

当ブログに書いた計算上の推定値についての記事はこちら。

福島の甲状腺がん検査の患者数は? 感度・特異度により3人?12人?(応用できる一般式付き)
http://blog.goo.ne.jp/kuba_clinic/e/6a02a115e45411901a865df6cf4dcb34

H23年度 38114人のうち、二次精検をした76人中10名が陽性(うち3名が摘出し診断確定)、66名が陰性という数字になっています。

甲状腺がん「被曝の影響、否定出来ず」~疫学専門家インタビュー
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1549

ここで津田先生が説明しているように、3名だとして、有病率(有病期間7年または10年)で比較しても、数倍高く「多発」だということになる。


津田先生の「有病率と発生率」の式に3人と10人をあてはめてみると、

有病割合(P)=発生率(I)×平均有病期間(D)
 P=3÷38114=78.7人/100万人
 P=10÷38114=262.4人/100万人

発生率(I)=P/D

100万人あたりの発生率は

患者数=3人のとき 平均有病期間を7年または10年として
I=3×100万/(38114×7×100万)=11.24/100万人
I=3×100万/(38114×10×100万)=7.87/100万人

患者数=10人のとき 平均有病期間を7年または10年として
I=10×100万/(38114×7×100万)=37.48/100万人
I=10×100万/(38114×10×100万)=26.24/100万人

患者数は10人前後と考えた方がよさそうなので、従来の平均発生率を100万人に2人とすると、それぞれ18.7倍、13.1倍という数字になる。

大雑把に言って、
 超音波で結節 0.5-1% 500-1000人/10万人
 甲状腺がん有病率 0.01-0.03% 10-30人/10万人 ←「1万人あたり1~3人」程度
 甲状腺がん発生率 0.001-0.003% 1-3人/年/10万人

今回のデータで明らかになったこのあたりのレンジで網を張りながら、その後の経緯で更に増えるのか発見される人数が減ってくるのか見守る必要がありそうだ。

このことと、

子どもの甲状腺「福島、他県と同様」 環境省が検査結果
http://www.asahi.com/national/update/0308/TKY201303080179.html

長瀧重信・長崎大名誉教授「超音波検査の性能が上がり、嚢胞などが見つかりやすくなった。福島が異常な状態ではないとわかった。ただし今回の調査だけでは、被曝の影響の有無は判断できない。福島で生涯、検査を続けることが必要だ。地域性もあるため、福島県で事故後に生まれた子への検査との比較も必要だ」

このコメントが論理的に結びついていない。
(最初に書いた専門家の見方)
「多発」自体を否定しているのが前提なので、その後の筋道も理解不能になる。

考えられる筋書きは、冒頭に書いた2つの推論だが、いずれも不可解。

1)福島県内外で頻度が変わらず、他県でも同程度の頻度で甲状腺がんが発見されると仮定したら、全国で全小児にスクリーニングをしなくてはいけなくなる。無論そのようなことは必要ない。ならば福島での検査の意味がわからなくなる。

2)福島県内外で頻度が変わらず、福島県だけB判定に二次検査を実施してがんが発見され、他県では二次検査の必要がないとしたら、同じ割合であっても福島だけB判定から高頻度にがんが発見されるという意味になる。同じB判定でも福島だけハイリスクで他県ではローリスクだということ。しかしその根拠がない。