ネット上でいろいろと議論になっているようだが、フォローできてません。
ざっと眺めてみておおよその方向性を探ってみます。
結論だけ先に書いてしまいますが、
1)福島県内外で頻度が変わらず、他県でも同程度の頻度で甲状腺がんが発見されると仮定したら、全国で全小児にスクリーニングをしなくてはいけなくなる。無論そのようなことは必要ない。ならば福島での検査の意味がわからなくなる。
2)福島県内外で頻度が変わらず、福島県だけB判定に二次検査を実施してがんが発見され、他県では二次検査の必要がないとしたら、同じ割合であっても福島だけB判定から高頻度にがんが発見されるという意味になる。同じB判定でも福島だけハイリスクで他県ではローリスクだということ。しかしその根拠がない。
導かれる推論はいずれも不可解で納得できるものではありません。
専門家の言っている意味は、福島県内外で頻度が変わりないので、特にA2判定については全く心配がないということと、甲状腺がんとされた3~10例については、原発事故とは関係なく(←ここで検査結果に関わらず断定)検診によってたまたま早期に発見されたものだから心配ない(?)、ということらしい。
さてさて。。
(追記:5mmという区切りが甲状腺がんの有無を検出するには小さすぎて差がでない(福島の10症例はもっと大きい)可能性も否定できないが、子どもの甲状腺で5mmの結節があっても本人に知らせないし以後フォローなしという他県3市の扱いは混乱を助長しただけ。)
平成25年3月29日
福島県外3県における甲状腺有所見率調査結果について
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=16520
弘前市 1630人
甲府市 1366人
長崎市 1369人
合計 4365人
A 4321人 99.0%
A1 1852人 42.4%
A2 2469人 56.6%
B 44人 1.0%
C 0人 0%
結節5.1mm以上 44人
結節5.0mm以下 28人
嚢胞20.1mm以上 0人
嚢胞20.0mm以下 2482人
(人数に重複あり)
要するに、B判定の44人は全員5.1mm以上の結節(+)で、一部に20.0mm以下の嚢胞を伴う人もいた、ということ。
B判定の割合は
弘前 1.3%>甲府 1.1%>長崎0.6%と西に行く程低くなっているように見えるが、この人数でこの差を評価することは意味がないだろう。
一方、福島県内の調査は現在も進行中だが、年代・性別の県内外の比較は以下の記事に掲載されている。
しこりの割合本県低く 4県の子ども甲状腺検査(福島民報)
http://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2013/03/post_6779.html
甲状腺検査のこれまでの結果と今後の検査日程(放射線医学県民健康管理センター)
http://fukushima-mimamori.jp/thyroid/thyroid-info01.html
ここに掲載されている以下のPDF(2013年1月時点での集計)が最新版だろうか。
http://fukushima-mimamori.jp/thyroid/media/thyroid_status_201301.pdf
H23年度 38114人
A 99.5%
A1 64.2%
A2 35.3%
B 186人 0.5%
C 0人 0.0%
H24年度 94975人(2013年1月現在)
A 99.4%
A1 55.8%
A2 43.6%
B 548人 0.6%
C 1人 0.001%
----------------
福島県外3市(比較)
A 99.0%
A1 42.4%
A2 56.6%
B 44人 1.0%
C 0人 0.0%
----------------
A2,B,C判定の内訳
H23年度
結節5.1mm以上 184人
結節5.0mm以下 201人
嚢胞20.1mm以上 1人
嚢胞20.0mm以下 13382人
H24年度
結節5.1mm以上 538人
結節5.0mm以下 413人
嚢胞20.1mm以上 6人
嚢胞20.0mm以下 41433人
(人数に重複あり)
----------------
福島県外3市(比較)
結節5.1mm以上 44人
結節5.0mm以下 28人
嚢胞20.1mm以上 0人
嚢胞20.0mm以下 2482人
----------------
問題の甲状腺がん3名、残り7名もがんの可能性が高いという件については、こちらのブログに検討委員会の文字おこしが掲載されています。
第10回「県民健康管理調査」検討委員会2013.2.13 <質疑応答文字起こし・ほとんど全部>
http://kiikochan.blog136.fc2.com/blog-entry-2775.html
当ブログに書いた計算上の推定値についての記事はこちら。
福島の甲状腺がん検査の患者数は? 感度・特異度により3人?12人?(応用できる一般式付き)
http://blog.goo.ne.jp/kuba_clinic/e/6a02a115e45411901a865df6cf4dcb34
H23年度 38114人のうち、二次精検をした76人中10名が陽性(うち3名が摘出し診断確定)、66名が陰性という数字になっています。
甲状腺がん「被曝の影響、否定出来ず」~疫学専門家インタビュー
http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/1549
ここで津田先生が説明しているように、3名だとして、有病率(有病期間7年または10年)で比較しても、数倍高く「多発」だということになる。
津田先生の「有病率と発生率」の式に3人と10人をあてはめてみると、
有病割合(P)=発生率(I)×平均有病期間(D)
P=3÷38114=78.7人/100万人
P=10÷38114=262.4人/100万人
発生率(I)=P/D
100万人あたりの発生率は
患者数=3人のとき 平均有病期間を7年または10年として
I=3×100万/(38114×7×100万)=11.24/100万人
I=3×100万/(38114×10×100万)=7.87/100万人
患者数=10人のとき 平均有病期間を7年または10年として
I=10×100万/(38114×7×100万)=37.48/100万人
I=10×100万/(38114×10×100万)=26.24/100万人
患者数は10人前後と考えた方がよさそうなので、従来の平均発生率を100万人に2人とすると、それぞれ18.7倍、13.1倍という数字になる。
大雑把に言って、
超音波で結節 0.5-1% 500-1000人/10万人
甲状腺がん有病率 0.01-0.03% 10-30人/10万人 ←「1万人あたり1~3人」程度
甲状腺がん発生率 0.001-0.003% 1-3人/年/10万人
今回のデータで明らかになったこのあたりのレンジで網を張りながら、その後の経緯で更に増えるのか発見される人数が減ってくるのか見守る必要がありそうだ。
このことと、
子どもの甲状腺「福島、他県と同様」 環境省が検査結果
http://www.asahi.com/national/update/0308/TKY201303080179.html
長瀧重信・長崎大名誉教授「超音波検査の性能が上がり、嚢胞などが見つかりやすくなった。福島が異常な状態ではないとわかった。ただし今回の調査だけでは、被曝の影響の有無は判断できない。福島で生涯、検査を続けることが必要だ。地域性もあるため、福島県で事故後に生まれた子への検査との比較も必要だ」
このコメントが論理的に結びついていない。
(最初に書いた専門家の見方)
「多発」自体を否定しているのが前提なので、その後の筋道も理解不能になる。
考えられる筋書きは、冒頭に書いた2つの推論だが、いずれも不可解。
1)福島県内外で頻度が変わらず、他県でも同程度の頻度で甲状腺がんが発見されると仮定したら、全国で全小児にスクリーニングをしなくてはいけなくなる。無論そのようなことは必要ない。ならば福島での検査の意味がわからなくなる。
2)福島県内外で頻度が変わらず、福島県だけB判定に二次検査を実施してがんが発見され、他県では二次検査の必要がないとしたら、同じ割合であっても福島だけB判定から高頻度にがんが発見されるという意味になる。同じB判定でも福島だけハイリスクで他県ではローリスクだということ。しかしその根拠がない。