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福島県の小児甲状腺がん 本格調査で「増加」が明らかに (業界紙掲載予定)

2015年10月09日 | 東日本大震災・原発事故
#ブログに掲載した内容を、県内の医師・歯科医師団体の新聞に掲載するためにまとめたものですが、最後のパラグラフは今回追加したものです。津田論文や県内における「先行調査での多発」論については時期尚早であり、最低でも三巡目の結果(あと2年半)を待たなければいけないと考えています。

「また甲状腺がんの話か」と思われるかもしれませんが、先行調査(2011~13年度)では「わからない」という結論だったものを、本格調査(14~15年度)で初めて「増加」の判断に転じたという重大な岐路に立っていると考えています。

 この判断はあくまで先行調査と本格調査の比較であり、脱原発派や一部の専門家が「先行調査で数十倍も増加」と主張しているのを支持するものではありません。

 本格調査の中間報告は2・5・8月に発表になっています。数字の詳細は県民健康調査HPに掲載されているので省略しますが、8月の時点で甲状腺がん「確定+疑い」が先行調査で112人、本格調査では25人に達しています。疑い例とは穿刺細胞診で陽性で、手術せずに経過観察している例であり、これまでの経緯からほぼ全例ががんだと考えて差し支えありません。



 有病率(発見率)と年間の発症率を推定してみます(単位は10万人あたり)。先行調査ではスクリーニング効果を10年分と仮定し、本格調査では受診間隔を2.5年とします。

 先行調査では有病率の1/10で発症率は3.7人、本格調査では有病率の1/2.5で発症率は5.9人と推定されます。ただし、本格調査で一次検診の判定率と二次検診の受診率まで計算に含めると発症率は10.4人と推定され、先行調査と比較して増加していることはほぼ確実です。(グラフは発表時の発症率の推移で、傾きには意味がありませんが、両グラフが交差することで増加と判断できます。)



 この数字をベラルーシと比較してみると、3.7人は小児の94~95年のピーク、5.9人は思春期の98~99年の急上昇期、10人は思春期の2000~01年のピークに相当します。



 これまで甲状腺がん患者が多数発見されてきた中で、①スクリーニング効果、②過剰診断・治療、③多発という3つの可能性が議論されました。8月発表の資料で、手術例のほとんどは従来の手術適応に沿ったものと報告され、②は否定的です。また、両調査は同じ方法で継続しているので、比較すればバイアスは相殺されます。①のスクリーニング効果を評価する手法が提起されていませんが、仮定とした10年という年数を短くすればスクリーニング効果自体が否定される方向になり、長くすれば本格調査との差がより大きくなってしまいます。残る可能性は③の多発ということになります。ここでその原因や因果関係まで論じることはできませんが、少なくとも原発事故との関連を否定することは不可能です。

 私たちは医師・歯科医師の立場から、社会に対する発言には責任が求められ、判断はより慎重であるべきで、数字を客観的に判断していくべき考えます。先行調査に対する安全・危険両派の主張には矛盾が存在するため判断は保留のままとしますが、本来の目的である本格調査における増加傾向には敏感に反応すべきと考えます。

 今回の推計で得られた傾向が今後どのように推移していくかを見通すことは困難であり、歴史的に確定するのは最低でも三巡目以降になると考えられます。

 調査に対する信頼が失われて受診率が低下していることも大きな問題であり、早期発見・治療のためにも、信頼性を高めて受診率を維持していくことが必要とされています。B判定の基準以下でも結節(+)の場合には受診間隔を短くすることも検討すべきです。

 6月に八戸で開催された高レベル放射性廃棄物シンポジウムについて詳報できませんが、日本学術会議の提言と山脇直司氏の『公共哲学からの応答 3・11の衝撃の後で』を共通理解のための基礎資料としてお勧めしておきます。再処理事業の認可法人化や、乾式貯蔵への交付金拡充など、先行きのない核燃サイクルを堅持するための姑息な政策が続々と打ち出されており、最終処分場選定は道を誤って早くも頓挫しています。国民の議論と同意、倫理、哲学なき政権が崩壊の道を辿ることは歴史の必然ですが、その際には子ども達や将来の世代に負の遺産が残されることになります。