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「甲状腺がんは増えていない」は本当か(2022年9月)

2022年09月01日 | 東日本大震災・原発事故
 福島県の甲状腺がん検診の開始以来、当欄でも何度か取り上げてきたが、多くの方にとって過去の話となっているに違いない。

 甲状腺がんの人数を確認してみると、1巡目(以下、丸数字の①)から19年度の④までで254名、その他に⑤が6名、25歳検診で13名となっている。

 ④までの人数を、地域毎に一次検診者数と受診間隔で割って推定発症率を比較してみた(図)。①については、これまで「多発批判」に対する「スクリーニング効果」との反論を考慮して「10分の1(同効果は10倍)」と仮定してきたが、会津地域をベースラインと考えて「4分の1」に変更してみた。



 その結果、いくつかのことが見えてきた。①では地域差が観察されなかったのに対し、②では13市町村、中通り、浜通り、会津の順ではっきりと差が出た。一方、③と④では浜通りが増加しているように見える。

 また、会津の10万人あたり年9人という推定発症率は、想定された「100万人に1人」の90倍に相当する。低被曝地域におけるこの数字を根拠に「多発ではなく過剰診断」と判断することは理解できる。

 一方で、手術が過剰治療に当たるとの主張は、手術基準が変更されていないことから否定できる。『報道特集』で取り上げられた訴訟原告の中にも再発や転移例が多く、予後良好だから手術は不要とは言えない。

 また、②における地域差については検討委員会でも指摘されたが、様々な因子による調整作業にも関わらず地域差が残ったため、別の解析方法に変更された経緯がある。

 この問題が未解決のまま迷路に入り込んでいる現状を示した。訴訟で問題となる因果関係論については次の機会に再考してみたい。

 本紙『虫瞰図』と同様に国際機関の報告書を鵜呑みにしたステレオタイプなメディア批判や3人の元首相への批判と、HPVや新型コロナワクチン問題、福島原発事故後のデマ、温暖化陰謀論などとの関連を考えることが本稿の目的だったが字数が尽きた。

(青森県保険医新聞2022年9月1日号掲載)