踊る小児科医のblog

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日本脳炎・不活化ポリオ予防接種との関連を疑われた死亡事例報道について 現時点でのコメント

2012年10月27日 | 予防接種
 10月中旬から、日本脳炎と不活化ポリオ接種後にみられた死亡事例について報道されています。詳細な情報が手元になく、また、因果関係の証明というのは元々非常に困難だという前提の元に、わかる範囲でコメントしてみます。

1)日本脳炎 10歳男児 10月17日 接種後2時間半で死亡

 このケースは接種後5分には心肺停止していたと伝えられていますので、接種との直接的な関係が考えられますが、アナフィラキシー(強いアレルギー反応)によるショックの経過としては早すぎるように思われます。

 この年齢で「接種を嫌がって逃げたところを待合室で取り押さえて接種した」ということと、何らかの疾患で薬を飲んでいたという情報から、軽い発達の問題や基礎疾患があったことも疑われますが、それが関係あるのかどうかも不明です。不整脈を起こしやすい特別な疾患などの可能性もありますが、おそらく原因やワクチンとの因果関係が明らかになることはないでしょう。

 このやや特殊とも言える1例だけで日本脳炎の接種全体を見合わせることにはならないものと予想されます。

2)日本脳炎 10歳未満の子ども 7月 接種後約1週間で急性脳症にて死亡

 接種後の発症日数や、病状の詳細な経過なども不明で、剖検の情報もないようなので、ワクチンとの因果関係がある程度疑われるのか、ウイルス感染による脳炎・脳症などの「紛れ込み事故」の可能性が強いのかも判断できません。このケースでは厚労省による公表の遅れが不信感を増幅させてしまいました。

 日本脳炎は2010年に新しいワクチンで接種が再開されてから、接種との関連が疑われた死亡事例はありませんでした。なお、この2例で使用されたワクチンは阪大微研の製品で、当院で使用している化血研ではありませんでした。

3)不活化ポリオ 6ケ月~1歳の女児 9月 接種後18日で嘔吐、翌日死亡

 これは明らかに「紛れ込み事故」と言えます。不活化ワクチン接種後ずっと元気だったのに18日目にいきなり症状が出ることは考えられません。

 現在、日本は乳児死亡率が世界で最も低い国の一つですが、それでも千人あたり2~3人、全国で毎年100万人生まれた赤ちゃんのうち2000~3000人(毎週50人前後)が1歳前に亡くなっています。その多くは先天的な重い病気や小さな未熟児などですが、元気に育っていた赤ちゃんが突然亡くなる「乳幼児突然死症候群(SIDS)」という病気により、かつての年間500人から150人程度に減ったものの、今も全国で毎週3人前後の赤ちゃんが突然死しているのです。(SIDS の最大の要因は父親・母親の喫煙です)

 今回の3例はSIDSではなく年長児も含まれていますが、様々なウイルス感染による脳炎・脳症や心筋炎、それまで診断のついていなかった病気などにより、元気な子どもが急激に重症化したり死亡したりすることも稀にあります。

 特に乳幼児期は多くの予防接種を短い間隔で接種している時期ですから、接種後の一定の期間に重篤な症状が出たり死亡した例が発生することは避けがたく、ワクチンによるものか何らかの病気によるものかを区別することは困難になります。そこで、定期接種であれば因果関係が不明な「紛れ込み事故」も含めて予防接種に関連した死亡として救済措置がとられることになるのです。

 ポリオの生ワクチンから不活化ワクチンへの切り替えの際に、マスコミは「危険な生ワクチン」「安全な不活化ワクチン」というレッテルを貼って混乱を助長しました。これまでこの院内報でもお伝えしたように、ワクチンに限らず医療には「ゼロリスク」というものはありません。不活化ワクチンでも非常に少ないとはいえ他の予防接種と同程度の頻度で急性の副反応や、ワクチンと関係のない「紛れ込み事故」が起こり得ることを理解した上で、病気にかかった場合の大きなリスクも考慮して冷静に判断していただければと思います。

 日本脳炎に関しては、人から人への感染がないことと、青森県内にずっといるなら感染のリスクは低いことから、少し待って様子を見てからでも問題は生じないでしょう。ポリオは未接種者が多く輸入感染による流行が懸念されていることに加えて、死亡例と接種との因果関係は否定的なことから、接種を見合わせるべきではありません。なお、10月31日に厚労省の委員会で医学的な検証と検討がなされる予定で、その情報がわかりましたらまたお伝えします。

新井田川堤防で津波浸水予測図を確認 保健センター構想見直し→八戸市は丘陵地中心の街づくりを

2012年10月19日 | 東日本大震災・原発事故
#以下の文章は地域の医療系MLに投稿したもので、八戸市の田向地区に保健センターを建設して急病診療所や健診センターなどを移転させようという構想が市や医師会などの間で進んでいることについて書いた2回目の文章です。

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唐突に結論から先に書きますが、八戸市は五十年後、百年後の人口半減社会と津波防災を考えて、今後低地の開発は行わず、市街地を縮小して中心街や周辺の丘陵地域を残していくようにすべきと考えます。
(無論、港湾施設や沿岸部の企業・工場などは必要ですが)

先日、津波対策と急病診療所移転(保健センター構想)について書きましたが、その日に発表された県の予測図は皆さんご覧になったかと思います。

津波浸水予測図
http://www.pref.aomori.lg.jp/kotsu/build/tunami-yosoku.html
八戸市(3/4) PDFファイル 1,283KB
http://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kendo/kasensabo/files/2012-1001-2259.pdf

一昨日(10/17)、新井田川の堤防をゆっくりジョギングしながら、自分の目と足で確かめてきました。

45号線を下って塩入橋を渡り、招運橋、新井田中央大橋、新井田橋、対泉院、風の道公園というルート。

塩入橋~新井田橋の間は、川が流れる程度には緩やかに上っていますが、走っていてもほとんど意識することはありません。

塩入橋と招運橋の間では河川敷に下りてみましたが、川面から河川敷まで50cmもなく、堤防は河川敷から3m強しかない。
(当然、潮位や降水量によって変わってきますが)

45号線が少し高くなっているので、ある程度の障壁にはなると思います。
「予測図」でもそのようになってます。

招運橋~新井田中央大橋で川が大きくカーブするところでは、堤防は水面から5~6m(目測)と高くなり、川幅も思った以上に余裕があるので、集中豪雨や「普通の大津波」で決壊することはちょっと想像しにくい。。

また、塩入橋~招運橋では、新井田側は堤防が土地の高さそのものなのに対し、南類家側は1~2m低くなっていて、新井田中央大橋に近づくにつれ堤防の高さと同じくらいになっていきます。

「予測図」では、諏訪がピンク(2m以上5m未満)、45号線を越えて類家~南類家でオレンジ(1m以上2m未満)から黄色(0.3m以上1m未満)、緑色(0.3m未満)となり、田向の市民病院の手前で白になっています。

今まで何度か45号線~市民センター~市民病院前~新井田中央大橋というルートをジョギングした時に、ほとんど標高差を感じることがなかったので、この色分けに疑問を抱いていたのですが、「ある程度の」根拠はあるのかなと感じました。

ただし、昨年の震災でも市民病院付近まで船が打ち上げられたし、普段でも満潮時はこのあたりまで逆流しています。石巻のような直撃を受けた時に本当にここで水が止まるのか、堤防を乗り越えないのか、、これで大丈夫と言う気にはとてもなれません。

「北上川河口、堤防決壊した集落の水引かず」2011/4/1
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK0100L_R00C11A4000000/
阿武隈川・鳴瀬川・北上川の被害 - エイト日本技術開発(PDF)
http://www.ejec.ej-hds.co.jp/sinsai/houkoku/23.pdf
 ↑
地震の揺れや液状化による堤防の損傷もあり得るようです。

いずれにせよ、もし田向まで浸水する時には市内は壊滅的な被害になるわけですから、あまり考えたくないし、多分生きているうちにはないだろうと思いますが、これから何十年も使う公共施設を新たにつくるときには検討すべき重要な要因かと思います。
(私には責任もないし個人的にはどうでも良いのですが)

保健センターの候補地を探してみましたが、旧柏崎小跡地(標高8m)か旧警察署・消防署跡地(同17.5m)しかないだろうと考えます。
(最初から「田向で」という結論を前提に検討しているのだから他の候補地は全く念頭にないことは承知していますが)

標高がわかるWeb地図(国土地理院)
http://www.gsi.go.jp/johofukyu/hyoko_system.html

(蛇足)
今回走ったルートは6.7km、46分52秒で、ちょうどキロ7分ペースのスロージョグ。
今年度の准看学院最後の講義(11回目・禁煙講義90分)を終えてぐったりしていたのですが、気持ちよく汗をかいて走り終えたら体も楽になっていました。
健康維持が目的なら、この程度の距離・スピードがちょうど良いのかもしれません。
ちなみに、流行の「超スロージョギング」というのは歩くのとほとんど同じ時速4~5km(キロ12~15分)で、この遅さで走るのは結構しんどいかも。。

バンダジェフスキー『放射性セシウムが人体に与える医学的生物学的影響』短評

2012年10月18日 | 東日本大震災・原発事故
以下の文章は、ユーリ・バンダジェフスキー『放射性セシウムが人体に与える医学的生物学的影響: チェルノブイリ・原発事故被曝の病理データ』について「読書メーター」に載せた感想です。

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扱いが難しくわかりにくい本だが、これを読んでも「チェルノブイリでは甲状腺がんしか増加せず、セシウムでは何の健康障害も生じなかった」という公式の説をそのまま信じていられるなら、よほど楽天的か、よほど疑い深いか、あるいは疑いを知らないかのいずれかであろう。

確かにn数もエラーバーもないし、有意差があるのか傾向なのかも記載がないことが多く、ときに断定的であり、万人にお勧めの本とは言えない。

しかし、おおまかな傾向としては数十ベクレル/kgの蓄積があれば何らかの臓器や機能の異常が出てくると推測できそうだ(何ベクレルなら大丈夫かはわからない)。

1日1Bq摂取すると200Bq(20kgの子で10Bq/kg)まで蓄積されて平衡に達するとされているので、新基準値などは問題外で可能な限りベクレルフリーを目指すべきだろう。

(7/10)