踊る小児科医のblog

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村上春樹『職業としての小説家』隠された主題は学校・いじめ、歪んだ日本社会、原発、文学賞、若者

2015年12月30日 | ART / CULTURE
 村上春樹はなぜ「いま」この本を世に送り出したのか。

 その答えの一部は、やや唐突に挿入された「第8回 学校について」にあるだろう。画一的な学校システムの歪みの中で命を落としていく子どもたち。その歪みは日本社会の歪みそのものであり、必然的に福島原発事故にも言及していく。「(通常の想定を超えた自然災害が)致命的な悲劇の段階にまで推し進められたのは、現行システムの抱える構造的な欠陥のためであり、それが生みだしたひずみのためです。システム内における責任の不在であり、判断能力の欠落です。他人の痛みを「想定」することのない、想像力を失った悪しき効率性です」「おそらくみなさんもおおむね同じような思いを抱いておられるのではないでしょうか」と。

 もう一つは毎年繰り返されるノーベル賞騒ぎ。「第3回 文学賞について」では過去の芥川賞(を逃した)騒動に触れつつ、ノーベル賞についてはチャンドラーの例など間接的な言及に留められている。私自身、春樹氏が受賞してテレビなどのメディアに晒される姿は想像しにくいし、見たくもない。それが受賞を強くは望まない最大の要因になっている。しかし、ここでは文学賞よりも読者との直接的な関係性を重視しているということが繰り返し強調されているだけで、受賞を拒否するという意味合いは含まれておらず、実際に国内外の文学賞をこれまでも受賞し、式典にも出席してきている。

 冒頭の「なぜ」という疑問がわいた理由は、本書のかなりの部分は、これまでも各種エッセイだけでなく、音楽、ランニング、作家活動などについての単行本やインタビュー集でも触れられてきた内容であり(しかも本書の中でも繰り返しが多数あり)、古くからの愛読者にとって、ディテールはともかく大筋において「新たな発見や驚き、喜び」は少なかったというのが正直な感想だからだ。

 その三つ目の答えとしては、上記二つとも重複するが、『1Q84』以降の「第二のブーム」で生じた若い読者を主な対象として書かれたのではないかと考える。私自身は『1Q84 BOOK3』以降の3冊(『多崎つくる』『女のいない』)に言いようのない違和感を感じ、「いま」どうして多くの新たな読者に読まれ始めているのか理解し難い状況にあるので、そのような若い読者層からどのように受け止められたのか若干の興味はある。

 それにしても、出版不況と一部の活況(春樹氏や又吉氏など)の中で、村上春樹の新作を購入せずに図書館から借りて読んだという事実には、何か煮え切らない思いがあるのも事実だ。(かと言って購入して手元に置いておきたいとも思わなかったが。。理由は上述。)

※読書後の短文レビューを長らくサボっていたが、脳味噌と一緒に煙となって消えてしまう前に(それ以前に記憶ネットワークから焼失してしまう前に)、わずかでも興味を持った人の役に立つことを願いつつ、一言ずつでも書き残しておくことにする。(今回は少し長くなったが)

福島県の甲状腺がん:最大径30.1mm、男女差は再び女性優位、年齢構成は変化なし

2015年12月22日 | 東日本大震災・原発事故
8月発表の時点で「本格調査の方が男女差が少なく、震災時の年齢が平均1.6歳若い。腫瘍径は本格調査の方が小さい」と書きました。一部重複しますが、先行調査、本格調査(8月と11月発表)を比較してみたところ、
腫瘍径では30.1mmという大きながんが発見されたので、平均、標準偏差共に増加。
年齢、震災時年齢については大差なし。
男女比は、8月に比べて増加した14名のうち、男5、女9と女性の方が多く発見され、1:1.27から1:1.44に開いた。(先行調査では1:1.97)
これは楽観材料の一つとも言える。
ただし、前回のentryに書いたように、8月発表で予測されたペースを上回る頻度で発見されているのも事実。(ベラルーシのピーク前後に相当)

※→39人の先行検査はA1 19人、A2 18人、B 2人で、全員が先行調査も受診しているので、その後30mmまで増大したということ。

先行調査 113人(良性の1人を含む)
男性:女性 38:75(1:1.97)
年齢 17.3±2.7(8-22)
震災時 14.8±2.6(6-18)
腫瘍径 14.2±7.8(5.1-45.0)

本格調査(8/31発表) 25人
男性:女性 11:14(1:1.27)
年齢 17.0±3.2(10-22)
震災時 13.2±3.6(6-18)
腫瘍径 9.4±3.4(5.3-17.4)

本格調査(11/30発表) 39人
男性:女性 16:23(1:1.44)
年齢 17.1±3.2(10-22)
震災時 13.2±3.2(6-18)
腫瘍径 9.6±5.6(5.3-30.1)

第21回福島県「県民健康調査」検討委員会資料
http://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/21045b/kenkocyosa-kentoiinkai-21.html

福島県の甲状腺がん(11/30):本格調査で39人、推定発症率7.8人(補正後12.4)/10万 倍増は確実 2015年12月12日
http://blog.goo.ne.jp/kuba_clinic/e/b244bf096d0d4f0d1a853a7101d9e47e

福島県の甲状腺がん(11/30):本格調査で39人、推定発症率7.8人(補正後12.4)/10万 倍増は確実

2015年12月12日 | 東日本大震災・原発事故
結論は8月発表と同じですが、予想を上回る割合で甲状腺がんが検出されています。甲状腺がん「確定+疑い」は、
8月 6+19=25人
11月 15+24=39人



単純に一次受診者数で割ると、発見率(有病率)は、
8月 14.8人/10万人(以下同じ)
11月 19.5人
先行調査からの受診間隔を2.5年と仮定すると、
8月 5.9人
11月 7.8人



一次受診者中の判定率と二次受診率で補正すると、
8月 10.4人
11月 12.4人
つまり、毎回の受診率で補正した以上に発見されているということになります。
補正前の「7.8人」、補正後の「12.4人」は、ベラルーシの1999年~2001年のピーク時に相当する数字です。



先行調査については今回の資料で新たな数字が出ていないので、前回(8月)の確定結果の数字を使うと、3.7人/10万人(スクリーニング効果を10倍として)ですから、補正前の「7.8人」の時点で倍増は確実と言えます。

前回も書いたように、この「10倍」という数字を大きくすれば本格調査との差が更に拡がることになるし、小さくすれば本格調査との差は縮まりますが、スクリーニング効果自体の意味がなくなり、先行調査の時点で多発と言わなければならなくなります。
(前回までスクリーニング効果の表現を「年数分」としていましたが、今回から単純に「何倍」かと書き改めることにしました)

同時に発表された「中間とりまとめ(案)」では、先行調査について「放射線の影響は考えにくいと評価する」としていますが、本来の目的である先行調査と本格調査の比較については全く触れられておらず、既に把握しているはずなのに意図的に隠そうとしているとしか思えません。
(これだけ単純な割り算で明らかになっているものですから、事務局も委員も当然把握しているはずと思われます。)

第21回福島県「県民健康調査」検討委員会資料
http://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/21045b/kenkocyosa-kentoiinkai-21.html