昨日、プレゼンのことを書いていて思い出したのだが、社会人になって最初の仕事は営業だった。今となっては細かいことは憶えていないが、途方に暮れながらも日々悩んでいたはずだ。というのも、自分よりも客のほうが知識も経験も豊富なのである。その相手に何をどうしようというのだろうか。不思議なもので、最初の商いは記憶に無いのに、最初に自分の話に耳を傾けてくれた人のことは鮮明に記憶している。それはおそらく、商いのほうは、自分と相手との関係というよりも、自分の所属している組織と相手のそれとの間の関係によって、或る程度は習慣として成立したという事情もあるだろう。話を聞いていただくというのは、自分と相手との個人的な姿勢の問題なので、そこに自分を認めてもらった手応えのような実感があるから鮮明に記憶されるのだろう。「最初の一歩」という言葉を何気なく使うことが多いのだが、未経験を自分の頭で考えて克服するという意味で一歩踏み出すということは、傍目には些細なことであっても、やはり自分の思考に裏づけを与える大きな経験になるということなのである。振り返ってみれば、そういう大きな「一歩」は必ず他者との関係のなかにある。人は関係性のなかにのみ存在するものなので、それは当然のことではあるけれど、長く人生を重ねて習慣に流されていると、そうした当然を忘れがちになるものだ。人との関係を大切にして、自分のなかでの「忘れえぬ人々」を増やしていかなければ、生きている甲斐がないと改めて思うのである。