はじめて歌舞伎の忠臣蔵を観た。今日は大序から四段目まで。肝心なところが腑に落ちなかった。松の間でなぜ塩谷判官が高師直に向かって刀を抜いたのか、理解できないのである。伏線はわからないでもない。兜改の場で師直が判官の妻である顔世にちょっかいを出していて、恋文を送ろうとしていたし、舞台では描かれていないが送ったのかもしれない。しかし、判官はそのことを知らない様子であったし、師直のほうも顔世のことで判官を気にしているふうでもない。むしろ、判官とともに将軍代参の饗応役を務める桃井若狭之助のほうが師直と一悶着起こしそうな雰囲気であった。師直から嫌がらせを受けて頭に血がのぼっている若狭之助は側近に対し師直を切るつもりだと明言までしているのである。
ところが、ここから風向きが変わってくる。自分の殿様から師直を切ると言われたほうの家来は殿の前では「それでこそ武士」などと煽っておきながら、饗応役指導のお礼という名目で殿には内緒で師直へ反物や金子を持参する。師直の若狭之助に対する態度は豹変する。
一方、ほぼ時を同じくして、顔世は師直からちょっかいを出されていることを判官には言わずに、師直へ自分にちょっかいを出すなという文を送る。振られた師直はその腹いせに今度は判官に対して当たるのである。師直は駄々っ子のようなものだ。向きになって相手をするほどの人物ではない。判官は師直が何を怒っているのかわからない様子だったのが、執拗に侮辱を受けて刀に手をかけてしまう。
私には、こうしたやりとりが刃傷沙汰になるほどのものとは思えないのである。子供の喧嘩のようなしょうもないことに、だいのおとなが刃物を振り回すだろうか?そんな人が人の上に立つようでは国は治らない。切腹は当然だろう。それをまた家来共が無念だと言って復讐を誓うのである。まともな組織ではない。
というような感想を妻に語ったら、「そんなことを言ったら、全国民を敵に回すわよ」と言われてしまった。果たしてそうなのだろうか?いよいよ今年も残すところ3ヶ月。年末は忠臣蔵の季節。是非、自分の眼で芝居を観るなり本を読むなりして、この忠臣蔵事件について全国民に考えてもらいたいものだ。