熊本レポート

文字の裏に事件あり

マルチ商法で磨かれたピラミッドによる裸の女王様

2017-04-20 | ブログ

 毒饅頭と毒饅頭まがいとは何がどう違うのかといった禅問答のようだが、いずれも永遠に存続はし続けないという理論上にあって、しかしバックマージンは貰える仕組みのマルチ商法、マルチまがい商法とネズミ講とは何が違うのかとなると、マルチ商法は化粧品やサプリメントなど商品販売を行っているとして合法で、ネズミ講は金銭のやり取りに終始している違法と教える。しかし、それは蒟蒻問答のような締めである。
 護送車に乗せられる時には、まだ快い風もあったが、ハイウェイに入るとアスファルトからの照り付けもあってか、汗が沸き出るようにして胸元を流れる。
 山根節子はスワンナプーム国際空港へ移送される際、そこで立ち寄ったガソリンスタンドで「七億円も集めたのですか」、「タイの男に貢いだのですか」、「化粧は満足にできましたか」といった声を鉄格子越しに浴びせられた。小学校の新一年生らが揃って、下校中に見つけたたこ焼き屋の前で、窓越しに飛び跳ねて質問しているかのような内容だったが、節子もそれに「帰ってからね」と応えた。
 被害総額七億円と言われれば、そういう気もするし、これが「三億円ですね」と声を掛けられると「ハイ」と応えるような感じに節子はあったが、実額は「桁違い」であった。それは口コミからネットビジネスに大きく変化したマルチ商法の組織を背景とした出資法違反で、また国税を恐れて出て来ることのない被害も極めて多額であった。
 節子が『あのケント・ワトソンが宣伝しているバンダーズ』という紹介で、そのバンダーズ・ジャパンに参加したのは六年前である。ケント・ワトソンとは、日本でも三十代以上なら誰でも知っているタレントで、彼は国際法弁護士であった。
 化粧品やサプリメントの通販会社であるバンダーズは、そうした商品を友人、知人と勧誘してピラミッドを拡大していくシステムである。ケント・ワトソンのセミナーにも会員を動員出来るようになった彼女は、それから僅か二年で関西から以西の統括責任者に就いたが、後で銀座に自ら宝石店もオープンさせた手腕、いや勧誘力を考えると、これがマルチ商法の表側で見せる魅力で、彼女の適職がそこにあった。
 そして今から二年半程前、彼女はさらに昇格して、バンダーズ・ジャパンでは初めての海外開発担当責任者としてフィリピンに赴任したのである。それは国内でトラブルや苦情が多発し出したという事もあって、これからは法の緩い東南アジアへの進出という会社の方針にあった。
 フィリピンでは警察や入国管理局の中まで、その勧誘組織を拡大していったが、それは彼女の営業力というより、後で実質的な統括者として送り込まれた小高良子の得意とする語学、外交力による貢献である。
 小高は節子と同じく幹部会員のポストに居たが、彼女は宮崎県の出身で、夫は歯科医師であった。
 節子は二億円の債権として、後にそれは福岡県の菊竹敦子に奪われるのだが、ここマニラでは一等地のマルテにビルを購入して居た。そこに若い愛人を抱えて、その彼にはフェラーリカー、それにハーレーダビットソンまで与えた。それは良子もまた同じで、二十代後半の愛人との生活に入ったが、そうした歓楽の間に多額の金が転がり込んで来るとなると、生活に何ら不自由はなくとも老いていく夫の横で食事の世話など、振り返りたくもないのは当然だと思っていた。
 しかし、 人は生を受けた状態で差が有り過ぎると思いがちだが本来、神は喜怒哀楽を平等に与える。二人にとって、そんな天国が長く続くはずがないのである。良子の若い愛人はマフィアに殺され、節子は良子との間にも亀裂が入って、インドネシアへ逃亡する宿命に入った。そこには遠く離れた日本で浮上した多額の配当遅れ、そうした母国では明らかに想定外とされる客船でのカジノ運営計画の破談と、坂を転げ落ちる兆しが、そこにはあった。
 それから二年近く過ぎて、横から繰り返される呼び声に気だるい目をゆっくり開けると、そこには手錠を手にした日本人が居た。日本領空に入った・・・。
 (これは最近の事件を参考の創作です)