第1回で述べた益城町での過去の出来事は当時、野党議員が百条委員会の設置で解明を求めた事案だが、与党議員はそれを拒否。
そして問題は不透明のまま町長選挙(平成26年4月)に突入し、疑惑を野党議員に抱かれた町長は敗北し、野党の担いだ役場課長の西村博則氏が初当選して町長に就任。
誤解のないように説明すると、益城町の議会はここで与野党も逆転。その説明は、これから語る「対立」にある。それは少数与党の苦難でもある…。
益城町には首長選挙の度に双方が「政争の解消」を掲げる通り、ここにも政治的な対立がある。
ところが、県の推進事業である「熊本・高森線における四車化問題」を行政的な対立課題と挙げられるようでは、果たして益城町の政争とは何なのか、である。
それは「合併問題」というが、そもそも国家の命運を担うような国策と同じく、それが明日の住民生活を180度も変える課題ならともかく、結論が出た後で怨念のごとく恨みつらみの思惑など、果たして論理に基づく政治主張といえるか、どうか。
地方自治体での意見の対立は手法上の問題で、それは調整の利く範囲の異なる意見といわれるが、益城町での対立は政治力学…。
それでは益城町に存在する力学的な「政争」とは何かだが、それは「利権」を巡っての対立。一般の町民には無縁のようだが、町からの仕事に頼る建設業者や運送会社、町から支援を受ける保育園、老人施設等には、その権益の専有が事業の命運となるわけで、そこで首長選挙に彼らは賭ける。
そこで彼らは首長選挙に社運、個人の生活権を賭けて必至に精を出すが、彼らに尻を叩かれた議員らが選挙の先頭に立つ。冷静に考えるまでもないが、一方では当然な構図。
利権で私腹を肥やすのはもちろん、公益の配分が過剰に偏ると、そこには不当な利益供与が生まれ、逆に住民には表に出ない負担を強いられたりもする。
利権を目指す勢力、それを阻止、死守する勢力とに別れての「政争」だが、そこで双方の勢力が「政争の解消」を訴えたら町民は「どちらが本物か」ということになる。ところが大方の住民は、冷静に自分で思考、判断する以前に激化する熱気に惑わされ、煽られて「異常な政争」に巻き込まれる。
この政争は首長のポストが目的であって、選挙が終わると4年先に向けて再び、その翌日から戦いが始まるわけで、議会を傍聴している住民にはそれが明らか。
かって、多くの市町村に存在した「利権を巡っての政争」だが、町民にとって何か得になるどころか、重き荷を背負わされる政争は早急に終止符を打つべきであって、要はそれを誰に託すか、である。
西村町長には、少数の与党議員からも不満が出る。
「スクールバスは続けて熊本交通運輸を使うし、震災での避難場所にエミナースを真っ先に選んで、頼みにも融通は利かんし、、」
名前の挙がった企業は、前の選挙で戦った相手候補の親族会社だが、それが納得できないのである。
だが、同町長は役場課長に語っている・・・
「復興から創造、建設という町の難しい時期にあって、政争ほど無益なものはない。そのためには我慢も大事。先ずは同志である与党議員さん、支持者らに『政争の解消』で挑む姿勢を理解してもらう」
同課長は、「与党議員さんの要望も少しは理解してください、と言いたいのだけど、何せ頑固な町長だから一度、腹に決めらしたことは曲げらっさん性格で・・・」と、語る。
またパフォーマンスは苦手で、全く派手さのない典型的な公務員出身となると、西村町長に「スピード感がない」というイメージも浮上する。
だからといって、野党議員辺りからの「スピード(自治行政)に欠ける」という見解はどうだろうか。
あの未曾有の大震災から苦難の復興へと、その行動力には誰もが高い評価を与える。もちろん個々の被災者にあっては、希望や不満の多いことは当然で、それは理解されるが、被災町民33000人のリーダーとしては、「マイナス点はない」というのが妥当な評価。
それでは、辛口の野党議員の決断、行動力はどうだったであろうか。
震災後の2年間を振り返っても平成28年の第3回定例議会、ここでは仮設庁舎賃貸料、学校給食センター建設用地の購入費、災害廃棄物処理に伴う起債などについて野党議員は反対・・・。
続いて同第4回定例議会でも職員定数条例の改正、子ども子育て会議条例の一部改正で同じく反対。教育委員会委員の任命議案についても野党議員は否決。
同29年の第4回定例会では、町長の不信任決議まで提出し、木山地区土地区画整理事業について反対。
町の行政にブレーキを掛けてきたのは、実は野党議員で、その中からの「西村町政はスピード感に欠ける」との声である。
イジメっ子による正義感と笑ってはならない。これはかって、何処の市町村にも存在していた「政争の戦術」で、当然な政治力学とされた。
さて今年、益城町は町長選挙を迎えるが、その政争の大舞台となる今回、現職の西村氏に挑むのは前町議会議員の野田祐士氏。
これからの益城町は、創造から建設期に入るといわれるが、この野田氏は建設業(測量士)出身者だけに、これからの町にとっては欠かせない人物。
支持者らは「復興再起動の益城町には行動力が求められ、その点は誰でも認める」と高く評価。
同氏は、給食センター建設用地の購入で反対を表示したが、それにも係わらず建設が決定し、設計が始まると、下請けの仕事を貰いたいと同設計コンサルタントに出向き、そしてそれを受注。
現職の町長に比べると、物怖じしない、また彼流の柔軟さが、そうした行動力につながっているのではないか。
ただ、議会で建設委員を務めた彼が、自ら町からの受注業者に出向き、同工事の分配を求めるなど、誤解を招きやすいことは確か。
4月22日の投票に向け、西村氏と野田氏が「政争のない益城町」を訴えて、町長の椅子を巡って戦うわけだが、第三者には甲乙つけ難い二人。
政策に驚く程の差があるわけではなく人間性、その手法、姿勢は地元の有権者しか判断はできない。
候補者が配布する後援会資料を見て、運動員の噂話で決めるのではなく、この益城町では「何を成すか」ではなく、「何を成さないか」を自ら冷静に考え、判断することが求められる。それが、「政争の終止符」になるのではないか・・・。