万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

公務員の労働基本権回復は慎重に

2010年05月10日 15時35分25秒 | 日本政治
 民主党の仙石国家戦略担当相は、ILOの総会に出席し、我が国の公務員の労働基本権の回復を表明する予定であると報じられています。しかしながら、公務員の役割は、民間の被雇用者とは違うことを考えますと、給与の交渉権やスト権などを認めることには、弊害があると思うのです。

(1)国民対公務員の構図に
 民間企業の場合には、労使の対決は、雇用側の経営者と被雇用側の労働者という構図としておよそ描くことができます。一方、公務員の場合は、雇用側とは国民であり、政府は、国民から委任されて、国家機構を運営しているに過ぎません。もし、公務員の団体交渉権を認めるとしますと、政府は、公務員の給与を負担している国民の利益のために、公務員と対峙することになるのです。つまり、労使対決は、国民対公務員の構図とならざるを得ないのです。

(2)民間の労働基本権とのバランス
 民間企業の場合、団体交渉権やスト権は認められていますが、業績が悪化した場合には、給料が減額されたり、リストラされたり、あるいは、企業そのものが倒産して雇用者・被雇用者の区別なく全ての人が職を失うといったリスクを負っています。一方、公務員にはこうしたリスクはほとんどなく、最も安定した職業と見なされています。もし、労働基本権において、公務員と民間とを同一化するならば、リスク負担の方も同一にしませんと、不公平となります。

(3)給与水準が曖昧
 民間企業の場合には、給与額は、その企業の収益によっておよそ決定されます。民間の労使交渉とは、利益の配分交渉でもあるのです。一方、公務員の給与には、利益の配分という側面がありません。行政サービスは、営利目的ではありませんので、利益そのものが存在しないからです。このため、行政サービスのレベルに関係なく、公務員の給与水準が”労使交渉”を通して決定されるとなりますと、際限ない賃上げもあり得ることになります。

(4)公務員は公僕
 公務員は公僕であるとされていますが、特に、スト権を認めますと、国民の基本権=生命、身体、財産が侵害される事態も予測されます。政府機能の停止は、国民の安全を脅かす重大な結果を招きます。

 これまで、ILOは、我が国の公務員の労働基本権に関して、政府側に対して回復を促す勧告を行ってきたようですが(回復という表現は適切ではないかもしれない・・・)、しばしば、公務員のストによって、国民生活が混乱する諸外国の事例が報じられるにつけ、公務員の労働基本権そのものを、原点に帰って考え直す必要があるのではないかと思うのです。

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