万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ノルウェーの悪夢―寛容派が最も非寛容という逆説

2011年07月26日 15時18分30秒 | 国際政治
ノルウェー連続テロ 移民の国 揺れる寛容(産経新聞) - goo ニュース
 如何なる理由があろうとも、大量殺戮という方法が人々の支持を受けるはずはなく、ノルウェーの連続テロ事件の犯人は、人間社会の禁じ手を使ってしまいました。アンネシュ・ブレイビック容疑者は、法律に基づいて厳罰に処されることになるでしょう。しかしながら、手段の悪辣さは別として、移民問題については、世界各国共通の課題として、よりオープンに議論されてもよいのではないかと思うのです。

 何故ならば、この事件には、移民や異文化への寛容を主張する人々が、最も非寛容という逆説が潜んでいるからです。現地のマスコミ報道から推察しますと、政権与党である労働党は、これまで積極的な移民政策を推進し、多文化共生主義を主張してきたようです。その過程で、外国人排斥を”悪”と決めつけ、移民の増加に反対する人々の言論をも封じてきたのでしょう。しかしながら、現実には、欧州各国で移民政策に反対を唱える政党が支持率を伸ばしていることからも分かるように、移民反対の主張が、一般の人々の共感を呼んでいることもまた確かなことです。つまり、寛容を盾に移民政策を推進する人々は、移民に反対する意見に対しては、ヒステリックなまでに非寛容なのです。

 ノルウェーの場合、イスラム系の住民の増加が問題視されており、国民の間では、手厚い社会福祉政策が、移民家庭の生活保護に費やされているという不満があるそうです。移民増加による治安の悪化や雇用の喪失なども、国民に不安を与える要因となっています。また、イスラム系の住民の人口がさらに増加しますと、やがてはイスラム法の適用要求が高まるかもしれません。多文化主義とは、それぞれが、自国の範囲に留まる限りは摩擦は起きませんが、一度、国境を越えて異文化の中に入り込みますと、多かれ少なかれ、社会的な亀裂を生む要因となります。安全と安心を求めて移民政策に反対する人々の主張には、単純な人種や民族差別とは違う次元の、合理的な反対理由が認められるのです。

イスラム諸国でも、移民が増加して、国民が同様の事態に悩まされるようになれば、反発と警戒が起きるでしょうから、これは、”お互い様”の現象です。このように考えますと、一方的な寛容を押し付ける左派の偏狭な態度にも問題があり、反対派の意見にも謙虚に耳を傾けるという、より広い意味での寛容性を持つべきではないかと思うのです。

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コメント (4)
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