万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

仏銃撃事件-文化的寛容が文化を危機に晒すパラドクス

2015年01月08日 15時25分21秒 | 国際政治
「ひれ伏すより立って死ぬ」=過激主義との対決貫く―仏銃撃事件で殺害の風刺画家(時事通信) - goo ニュース
 フランスで発生した痛ましいテロ事件は、イスラム過激主義の狂気を国際社会に見せつけることになりました。日頃より、「ひれ伏すよりも立って死ぬ」と語り、あくまでも脅迫に屈することなく凶弾に倒れた風刺漫画家、ステファヌ・シャルボニエ氏をはじめ、犠牲にならてた方々に対し、心より哀悼の意を表したいと思います。

 この凄惨な事件は、多文化共生主義、あるいは、文化的寛容の限界を問う事件でもありました(もっとも、フランスは、他の諸国と比較すれば、公立学校でのスカーフの着用を禁じるなど、自国の文化への同化を求めてきた国でもある…)。文化的寛容に関する問題点の一つは、言論や表現の自由と齟齬をきたす可能性があることです。エスプリや風刺はフランス文化の伝統であり、これまでも、アンドレ・ジレなど、名だたる風刺漫画化を輩出してきました。幕末に来日し、明治期に活躍したフランス人風刺画家のジョルジュ・ビゴー氏の作品も、鹿鳴館の図で知られるように、かなり辛辣なのではありますが、ペンを以って近代化へと向かう時代の一面を一枚の絵に描き出しています(なお、ビゴー氏は、日本国において襲撃を受けたという話は聞かない…)。また、フランスの啓蒙思想に発する批判精神はあらゆる分野に及んでおり、宗教もまた例外ではありません(シャルボニエ氏は無神論者であったとも…)。フランスでは、信仰の対象たる宗教であれ、何らかの問題点や欠陥が認識されると、容赦なく批判されるのです。言論の自由とは、批判を通した改善への道を保障する価値ですので、とりわけ尊重されているのです。ところが、仮に、多文化共生主義が言論の自由に優先されるとしますと、もはや他の文化集団に対する批判は許されなくなります。すなわちそれは、フランスが、自国の伝統的な文化を失うことを意味するのです。オランド大統領は、国民向けのテレビ演説を通して、今回の事件は「フランス共和国全体が標的にされたのだ」と語ったと報じられております。

 「ザ・インタヴュー」の公開に際して北朝鮮からテロ予告を受けたように、暴力を手段とする攻撃的な思想集団がもたらす脅威は、フランスに限られたことではありません。多文化共生主義、あるいは、無条件の文化的寛容こそが文化的な危機を招くというパラドクスに、多くの人々が気が付くべきではないかと思うのです。

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コメント (2)
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