万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国の証券市場は”異形の市場”に?

2015年07月09日 15時17分15秒 | 国際政治
 1年余りの間に株価が2倍に高騰した上海証券市場。数日前から下げに転じたため、バブル崩壊の予兆ではないかとする警戒感が広がっております。

 ところで、急激な経済成長を梃にして一気に金融の世界にも躍り出た中国ですが、中国の証券市場を、他の一般の証券市場と同じように考えてよいのでしょうか。一般的な意味での証券市場の基本的な役割は、金融機能です。株式会社は、証券市場において自社の株式を公開することで、資金を調達することができます(株式金融)。一方、株式の買い手は、配当や残余財産を受け取る権利に加えて、株主総会での議決権や提案権をも獲得し、経営への関与やチェックをすることができるのです。このため、株式市場では、株主権の獲得を目的とした売買も行われており、証券市場は、市場経済のメカニズムの一部を構成しているのです。ところが、中国の証券市場を見ますと、この機能が十分に働いているようには見えません。確かに、他の諸国の証券市場でも、利ザヤを目的とした投資家による投機行為は観察されますし、バブルやその崩壊による金融危機の原因ともなってきました。とは言うものの、民間企業が十分に育っていないためか、中国の証券市場での取引は、著しく投機に偏っているようなのです。上海株の急激な上昇の背景には、目先の利益に狂奔する一般の中国市民による投機行為も報告されており、株取引で手にした巨万の富は、日本国内での中国人観光客の”爆買”行動にも現れています。中国の富の大半は、企業、株主、消費者…といったアクター達による通常の経済活動ではなく、”投機”によって生み出されており、株価の下落は、その縮小を意味するのです。

 そして、上海証券市場に対する株価対策は、中国経済の真の主役の存在を浮き立たせます。それは、中国政府です。中国政府は、政府系証券会社による買い支え、一部銘柄の取引停止、中国人民銀行による直接融資、大口売却の禁止…など矢継ぎ早に対策を打ち出し、これらの政策効果があってか、本日の株価指数は、若干、持ち直しています。しかしながら、これらの措置を永続的に続けるとしますと、上海証券市場は、政府の管理下にある”統制市場”となり、ますます異形化してゆくことでしょう。行く行く先は、直接的であれ、間接的であれ、中国における金融機能は、中国人民銀行、あるいは、それをコントロールする中国共産党に集中することになるかもしれません。上海証券市場の動向と中国の株価対策は、中国経済の行方を占う上でも目を離せないと思うのです。

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コメント (2)
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