万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国の海洋法違反問題-海洋安全保障は憲法のスポット

2015年07月11日 15時33分00秒 | 国際政治
中国、東シナ海に新施設…軍事拠点化の恐れ
 日中間に横たわる東シナ海の天然ガス・油田開発問題は、近年、尖閣諸島をめぐる対立の陰に隠れて関心が薄れたものの、最近、中国が、新たな海洋プラットフォームを建設していることが判明したそうです。しかも、純粋な採掘用施設ではなく、軍事拠点化が強く疑われているというのです。

 大陸棚や排他的経済水域においては、沿岸国が軍事目的で主権的権利を行使することはご法度です。海上に施設を建設する行為自体は許されるのですが、その使用目的は、天然資源の開発などに限定されているのです(海洋法に関する国際連合条約第60条及び80条)。こうした海洋法違反問題は、南シナ海での埋め立て強行においても共通しており、中国脅威論が絵空事ではないことを裏付けています。国際海洋法では、紛争の平和的な解決手段として、調停の他にも、国際海洋法裁判所、国際司法裁判所、仲裁裁判所など司法的な解決の道が準備されており、実際にフィリピンは、南シナ海の問題を仲裁裁判所に提訴しています。ところが、中国には提訴に応じる気配はなく、判決にも従わない公算が高いのです。果たして、この時、国際社会は、中国の違法行為に対して、施設の撤去等の”強制執行”を行うことができるのでしょうか。実のところ、この種の問題に関しては、中国が国連安保理の常任理事国であるため、国連に解決を期待することができません。その一方で、平和を脅かす明確な違法行為が放置されるはずもなく、条約上に明文がなくとも、国際レベルの司法機関が違法の判断を示した場合、国連の枠外にあっても、個別的であれ、集団的であれ、各国には海洋安全保障に関する執行権の行使が認められると解釈せざるを得ないのです。

 海洋安全保障の領域は、1946年11月の日本国憲法の制定時には存在しておらず、ジュネーヴ海洋法条約の採択は1958年4月のことであり、海洋法に関する国際連合条約は1994年11月に発効しています。いわば、海洋安全保障の領域は、憲法のスポットなのです。安保法案については、違憲の声も聞かれるのですが、現在、日本国を含む国際社会が、これまでに経験したことのない新たな問題領域に足を踏み入れている現実こそ、議論の前提とすべきではないかと思うのです。

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コメント (2)
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