万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日本国は既に中国に賠償している-残置財産処分権

2015年07月25日 15時23分02秒 | 国際政治
三菱マテリアルと中国側労働者との交渉、政府は立場崩さず 今後の影響を注視
 1972年9月29日に公表された日中共同宣言の五では、「中華人民共和国は、日中両国の国民のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄すると宣言する」とあり、当声明の厳守は、1978年8月に署名された日中平和友好条約の前文においても確認されています。このため、日本国内では、日中友好を優先した中国が、寛大にも賠償請求権を自ら放棄したとするイメージが広まっております。

 しかしながら、中国は、一銭たりとも日本国から賠償を受け取らなかったのでしょうか。しばしば、中国に対する賠償については、中国側が賠償請求権を放棄したが故に、日本国が、長期にわたって数兆円にも上る対中ODAを実施する根拠となったと評されています。白紙小切手のように、上限がなくなってしまったことへの後悔であり、確かに、対中ODAの累積額は他の諸国に抜きん出ています。その一方で、ODA以外にも、中国は、既に賠償を受け取っています。サンフランシスコ講和条約の第五章には、請求権と財産についての条文が置れており、第一四(a)条では、賠償方法として(1)連合国諸国との取り決めによる賠償と(2)残置財産の処分権による賠償の、二通りを方法を定めています。このうち、後者である第一四条(a)2については、第二一条において中国にも利益を受ける権利を有すると明記されており、当講和条約の締約国ではないにも拘わらず、中国は、賠償を受け取る権利が認められているのです。実際に、この条項に従って、中国は、日本国政府、並びに、法人を含む国民が中国大陸に残してきた財産の処分権を得ており、その総額は、外務省による1945年8月5日の調査によると、2386億8700万円に上るそうです。鉄道、道路、港湾といった交通インフラや近代都市の建設をはじめ、日本国は、中国大陸に多額の投資をしており、この残置財産には、1871年9月の日清修好条規締結以降の、官民合わせた全ての日本国からの投資が含まれております。中国の急激な経済成長が、満州国のあった東北や華北に始まるのは、決して偶然ではないのです(仮に、中国がサンフランシスコ講和条約とは関係なく、対日賠償を放棄するならば、残置財産は返還されることになる…)。また、ヴェルサイユ条約やイタリアとの平和条約を見ますと、残置財産は、個人の損害に対する賠償にも充てられておりますので、中国国民からの個人賠償請求がある場合には、中国政府が対応すべきとも言えます。

 三菱マテリアルの前身である三菱鉱業もまた、戦前は、満州国、並びに、華北にて鉱業その他の製造事業を営んでおり、こうした民間産業施設も、戦後は中国側に接収されたことでしょう。日本国は、戦後のODAを別としても、中国に対しては既に条約に基づいて残置財産による賠償を実施しているのですから、過剰に中国に対して負い目を感じる必要はないのではないかと思うのです。

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コメント (4)
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