万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

HIV休職指示違法確定-勤務先への感染通知義務と職業制限は必要では?

2016年04月02日 15時01分34秒 | 社会
HIV休職指示、違法確定=勤務病院に賠償命令―最高裁
 先日、最高裁判所において、HIV(エイズ・ウィルス)に感染した看護士を病院側が解雇するのは違法とする判決が確定されました。しかしながら、感染者の職業が看護師なだけに、公衆衛生上、この判決には疑問が残ります。

 同訴訟では、病院側が感染の事実を他の病院での検査で知ったことから、その情報入手経路も問題視されておりました。”感染は他人には知られたくない情報”とし、病院側の賠償責任を認めています。その一方で、アメリカでは、俳優のチャーリー・シーン氏をめぐり、5人の女性がエイズ感染の事実を隠していたとして、訴訟を検討していると報じられています。今般、最高裁は、勤務先への感染の通知義務はないと判断しておりますが、エイズは、感染によって他者の命を奪う可能性があるだけに、勤務先に感染情報を伝えなくても構わないのか、疑問なところです。感染者を偏見から護るために、多くの人々の命が危険に晒される状態は、負の連鎖としか言いようがありません。シーン氏のケースにも、事実を正直に伝えていれば、この5人の女性達は発病の恐怖に怯える必要はなかったでしょうし、偏見に晒されることもなかったことでしょう。しかも看護師となりますと、皮膚に傷がある患者とも接触する機会も多く、感染の確率は高まります。仮に、勤務先の病院で、エイズ・ウィルスの院内感染が発生した場合、当然に、当該看護師は、感染情報の病院側への通知を怠ったとして告訴され、訴訟に発展する事態も予測されますし、病院側も、当該看護師のエイズ感染の事実を把握する努力を怠ったとして、管理責任を問われることでしょう。”本人が知られたくない情報は隠して良い”という態度では、エイズのみならず、あらゆる感染症は、拡散を防止できないはずです。

 最高裁は、”配置転換もできたはず”として病院側の非を認めていますが、それは、たまたま別経路で看護師の感染を知ったからであり、情報を入手していなければ、当該看護師を、普段通りに患者に直接に接っする業務に就かせていたことでしょう。ところが、厚労省のガイドラインでは、”HIV感染は解雇の理由にならないと明記”し、”感染リスクの高い医療従事者でも基本的に変わらない”とされているそうなのです。厚労省には、国民の健康を守る責務があるのですから、感染者には勤務先への感染情報の通知を義務付けると共に、医療分野など、不特定多数の人々と直接に接触する職業への従事には法的な制限を設けるべきなのではないでしょうか。

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