万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

国連改革も権力分立の観点を要するのでは?-司法の独立性の強化

2022年04月05日 15時44分43秒 | 国際政治

権力分立とは、近代国家の統治機構上の大原則とされています。モンテスキューが『法の精神』において述べたように、とりわけ司法の独立性は、人々の基本的な自由と権利を護る砦の役割を果たしているからです。この文脈における独立性とは中立・公平性を意味しますので、司法権が政治機関に従属しますと、為政者によっていとも簡単に国民の自由や権利が侵害されてしまいます(犯罪者が無罪となり、無実の人が有罪に…)。こうした権力分立の重要性に鑑みますと、今般、取り沙汰されている国連改革についても、権力分立の観点を要するように思えます。

 

 報道によりますと、ロシアによるウクライナ侵攻を機に、日本国政府は、国連改革にも積極的に取り組むようです。国連は、同危機に対してあまりにも無力でしたし、しかも、常任理事国による’侵略’は、同制度にあっては想定外の”あり得べからざる出来事”であったからです。もっとも、提言されている改革の内容を見ますと、安保理における常任理事国の拒否権の制限・撤廃や常任理事国のメンバー拡大など、安保理改革に焦点が当てられており、国連システムそのものの包括的な機構改革を目指したものではないようです。日本国もまた、本当のところは、かつての国際聯盟にあって占めていた常任理事国の席を回復したいというのが本音なのかもしれません。常任理事国のステータスは確かに魅力的なのでしょうが、日本国が国際社会にあって真に人類に貢献し、かつ、尊敬を得ようとするならば、それは、常任理事国という特権的な地位を獲得することではなく、権力分立の原則に基づく国際機構の再設計を唱えるべきように思えます。

 

 機構改革において先ずもって着手されるべきは、司法の独立性の確立かもしれません。その理由は、今日、国際的な紛争等が起きるたびに、ますます国際法における合法性が問われるに至っているからです。アメリカをはじめとする米欧諸国によるウクライナ支援も、ロシアによる侵攻を国際法上の侵略行為とみなしているからに他なりません。憲法第9条による制約がありながら、日本国政府がウクライナを支持し、対ロシア制裁に加わる理由も、ロシアによる違法行為が国際法秩序を崩壊の危機に晒すためと説明されています。こうした現状に鑑みますと、今日の国際社会は、司法面における改革、即ち、法の支配の基礎となる司法の独立性の制度的な確立こそ求められていると言えましょう。

 

現行の制度では、同裁判所が発した仮処分や判決の最終的な執行は、国連安保理という政治機関に委ねられているものの、現実には、たとえ裁判所において戦争犯罪の罪が確定されたとしても、同裁判所には強制執行力が備わっていませんので、政治的な決定によって判決内容が実現しない事態はあり得えます。残念なことに、安保理が、常設仲裁裁判所を含めて国際司法機関の判決を執行したという事例を過去に見出すことはできません。そこで、司法の独立性を確立するためには、凡そ以下の3つの強制力を行使し得る制度改革を要します。

 

第1の強制力は、仮処分命令を実現するためのものです。国際司法機関が、現在進行中の危機に介入し、国際法上の違法と見なされる行為を行っている国や組織に対し、被害や損害の拡大を止めるために同行為の停止を仮処分として命じた場合に必要とされる強制力です。この命令は、ウクライナ危機に際して国際司法裁判所が発しましたが、ロシアによって完全に無視されています。第2の手続きとは、国家の制度では、検察機関による捜査に当たります。裁判に先立って、検察は、起訴のために中立・公平な立場から当事者双方に対して関係者の事情聴取や証拠集めなどを行うのですが、必要とあらば強制力を行使する必要があります。そして、第3の手続きは、裁判所の判決に基づく刑の執行です。上述したように、強制力を以って判決が確実に執行されなければ、司法制度も結局は無意味となりましょう。

 

 以上に、司法の独立性の確保に向けた制度改革に伴って必要とされる3つの強制力を要する手続きについて述べましたが、ここまで読み進めまして、限りなく不可能に近いと思われる方も少なくなかったのではないかと思います。もっとも、先日、本ブログで述べましたように、国際司法機関の仮処分、並びに、判決については、当事国がこれを拒否した場合、安保理が執行機能を担うという方法もありましょうし(このケースでは、常任理事国であっても’拒否権’は使えない…)、国家の機構と同様に、より独立性を高めるために別途執行機関を新設するという案もありましょう。

 

中国といった共産主義国では権力分立の原則さえ否定されておりますので、これらの諸国による妨害行為も予測されますが、人類の知性並びに良心に照らせば、国際社会から暴力を排し、紛争の平和的解決を制度的に保障するためには、国際機構における司法の独立に向けた改革が必要であることは誰もが理解するところです。また、国連機構の改革については、安保理の専権事項でもありませんので、日本国政府を含むいずれかの国が提案すれば、国際社会において議論が始まる可能性もあります。そして、司法の独立性の強化は、国際社会における警察機能(現在、アメリカが辞任し、ロシアや中国にも任せることができない…)、さらには立法機能(一般的な行動規範の策定…)の問題にも波及することとなりましょう(議論が広がりすぎますので、本日は、司法面に留めることといたします…)。国連改革については、’どのような原則に基づき、どの方向に向けて変えるべきなのか’という問題こそ、問われるべきではないかと思うのです。


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