万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

第三次世界大戦の阻止もウクライナ危機における人類的使命

2022年04月11日 14時19分34秒 | 国際政治

ウクライナ危機を前にして、日本国政府を含む米欧諸国の政府にあっては、ロシア批判において足並みを揃えています。主要メディアの論調も、’残虐国家ロシア’、あるいは、’ロシア憎し’の凡そ一色であり、国民に対して同国に対する敵愾心を煽っているようにも見えます。

 

人道的介入というロシア側の根拠の真偽については客観的な検証を要するものの、ロシア軍は国境線を越えてウクライナの領域内で軍事作戦を展開しておりますので、一先ずは、紛争の平和的解決を義務付けている国際法には違反しています。このため、多くの人々が、ウクライナ支援や対ロ制裁等を積極的に支持するのも理解に難くはありません。ブチャにおける虐殺事件の報に憤り、ロシアに対する懲罰を求める人々も少なくないことでしょう。日本国内でも、ロシア側による北方領土における軍事演習の実施や主権主張などもあって、ネット上では対ロ戦争をも辞さないような勇ましい意見も聞かれます。

 

対ロシア強硬論が勢いを増す中、アメリカのバイデン政権も、ウクライナに対する軍事支援を強化し、NATO諸国も対ソ戦を想定して防衛力強化に動いています。西側諸国は、ウクライナ危機の解決、即ち、ロシアに対する’勝利’を目指す方向に向かって’前進’しているのですが、その一方で、同危機には、第三次世界大戦を招きかねないというリスクがあります。

 

仮に、ウクライナ危機が第三次世界大戦へと拡大したとすれば、その被害は天文学的なものとなりましょう。例えば、日本国の場合、中ロの陣営化により南北二方面戦争を余儀なくされます。第二次世界大戦時の独ソによるポーランド侵攻と同様に、北方からは北海道へとロシア軍がなだれ込む一方で、南方からは中国の人民解放軍が侵攻してくることでしょう。人民解放軍の能力と規模からすれば、対日攻撃は台湾制圧後とは限りません(もっとも、ウクライナに大きな兵力を割いているロシアに北海道を攻略できるだけの軍事的優位があるか否かは疑問ですが…)。

 

通常兵器であれば、自衛隊の実力を以ってすれば両国軍と対等に戦うことはできましょうが、両国とも国際法を順守するつもりは毛頭ありませんので、戦争法や人道法は無力となり、都市攻撃等による民間人の被害は甚大な数に上ることが予測されます。ウクライナの現状が示唆するように、両国軍の非人道的な残虐行為やサイバー攻撃により(中国は超限戦を準備している…)、日本国内も目を覆うような惨状となりましょう(情報通信をはじめ産業インフラも生活インフラも破壊され、国内ではパニックが起きるかもしれない…)。ウクライナ民間人の多くは難民として他国に避難していますが、全世界の諸国が戦場となれば安全な受け入れ国もなくなり、家屋を失った日本国民の多くは、難民となることさえできなくなります。

 

また、ロシアも中国も核保有国、かつ、長年、先端兵器の開発にも取り組んできましたので、開発中の極超音速ミサイルの使用のみならず、自衛隊の強固な抵抗に対抗するために、戦術核や生物化学兵器等の非人道的兵器を使用するかもしれません。加えて、禁輸措置により、ロシアからエネルギー資源を輸入することはできませんので、戦争継続のための資源や資材確保にも苦慮することとなりましょう(同盟国のアメリカも、東西両戦線に対して石油等を十分に供給できる余力があるとも思えない…)。

 

結局、最終的に核戦争を帰結すれば、戦勝国であれ敗戦国であれ、何れもが‘敗者’となります。日本国のみならず、何れの国も文化や文明をも失うほどの破壊を前に立ち尽くすこととなりましょう。ロシアに対する憎しみの爆発とその連鎖が結果的に人類をも破滅させるとしますと、それは、自殺行為のようにさえ思えます。これ以上の戦争の拡大は、たとえそれが正義の実現を目的としていたとしても、果たして、望ましいことなのでしょうか。

 

このような懐疑的な姿勢をとる理由の一つは、ウクライナ危機そのものが、人類を第3次世界大戦への向かわせるための‘挑発’である可能性を考慮すべきと考えるからです。今般の危機の背後にあって、ナポレオン戦争を手始めとして戦争利益で莫大な富を手にしてきた超国家権力体の策謀が噂されるのも、世界戦争というものが、敵対する両陣営の一般国民を犠牲に供しつつ、全世界に対する支配力を強める手段となってきたからに他なりません。3次元戦争では、2次元戦争の当事国はすべて敗戦国となるのです(国家の敗北…)。

 

目下、西側諸国の政府も世論も対ロシア強硬論に傾いていますが、第3次世界大戦に至った場合、どのような状況に直面するのかを、冷静に想定してみる必要がありそうです。そして、それが破滅的であるならば、ウクライナ危機の早期終息に努める一方で、第三次世界大戦だけは何としても阻止すべきではないかと思うのです。人類を救うために。


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