ロシア軍によるウクライナ侵攻を受け、日本国政府は、米欧諸国と協調し、対ロシア制裁に舵を切ることとなりました。本日の報道によりますと、追加措置として、対ロ送金ルートを断つための仮想通貨(暗号資産)規制及び最恵国待遇の取り消しを可能とする二つの改正案の国会での早期成立を目指すそうです。こうした対ロ制裁は、侵略であれ、ジェノサイドであれ、ロシアによる国際法上の違法行為が根拠とされているのですが、矢継ぎ早の対ロ制裁にはいささか不安を覚えます。何故ならば、ロシアの軍事行動は、必ずしもその根拠が否定されているわけでも(ロシアは人道的介入を主張…)、また、犯罪行為についても事実として証明されているわけではありませんし、深く考える時間も与えられず、皆が一斉に同一方向に向かって走り出すときほど危ないときもないからです。
今般のウクライナ危機が露呈したように、現状にあって国連の安全保障システムには限界があります。安保理常任理事国であるアメリカが世界の警察官の職を辞するとともに、今や、ロシアや中国といった暴力主義国家は、警察官から犯罪者へと転職してしまったかのようです。このため、国連憲章を厳密に解釈するならば、臨時的な措置であれ、同危機にあって、正当防衛を根拠として法的に軍事力を行使し得るのはウクライナのみとなります。ウクライナのみが、国連憲章第51条に基づいて、合法的に個別的自衛権を発動することができるのです(ウクライナは他のいかなる国とも軍事同盟条約を締結していないので、同国も他の諸国も集団的自衛権は行使できない…)。
しかしながら、その一方で、日本国政府を含め、米欧諸国はロシアに対する制裁を強めると共に、ウクライナに対しては武器や備品等の供与などを実施しています。そして、ウクライナに対して積極的な支援を行う根拠とは、上述したように、各国政府がロシアの行為を国際法上の違法行為と認定しているからに他なりません。この説明からしますと、ウクライナ危機は、最早ロシアとウクライナという当事国間のみの問題ではなく、たとえ国連の枠組みにおいて対応できなくとも、国際社会が協力して対処すべき国際法秩序全体の危機ということになりましょう。言い換えますと、現実的な対応として、全ての諸国が’世界の警察官’となり得るということになります。
国際社会の治安維持の観点からすれば、犯罪国家の行動の強制的な制止という意味において、全世界の諸国が’世界の警察官’の役割を担うのは、論理的にも倫理的にも正しいように思えます。現状はどうであれ、国際法自体は存続していますので、その執行を、機能不全が明確となった国連に限定する必要はないのかもしれません。将来にあって、各国が等しく警察機能の責任を担うとする案は、それが、司法行政の執行機関としての独立性が保証されるとすれば、国連改革、あるいは、国際システムの再構築に際しての一案ともなりましょう(軍事的には、発生時における迅速な双方の兵力引き離しや強制停戦等の任務…)。
もっとも、本ブログにあって再三指摘しておりますように(聞き飽きたかもしれず、申し訳ありません…)、司法手続きの原則からしますと、今般のウクライナ危機に対する各国の対応には、中立・公平な警察・検察機関による調査や捜査といったプロセスが抜けております。いわば、ウクライナ側の主張のみに従って各国が主観的に事実認定を行っているのであり(日本国政府も、事実であることを証明するに十分な証拠を得ているとも思えない…)、この側面において手続き上の欠落があると言わざるを得ないのです。
’推定有罪’に基づく主観的な懲罰は、冤罪のみならず、過剰反応や事態の一層の泥沼化を招く可能性もありましょう。最悪の場合には、’悪魔国家’ロシアは人類の敵!’とばかりにロシア叩きが加速し、第三次世界大戦へと押し流されてしまうかもしれません。連日のマスメディアの報道ぶりは、あたかも世論を扇動しているかのようです。
事実確認の作業を怠ったまままでの’戦線の拡大’は(両国を裏から操る黒幕が存在する可能性さえある…)、ロシア・ウクライナ戦争の法的根拠や大義にも疑義が挟まれる余地を与えます。また、イラク戦争のように、後々、その国際法上の合法性が疑われるリスクもありましょう(もっとも、当時のブッシュ政権は、大量破壊兵器の開発・保有の確たる証拠を掴むべく、フセイン大統領に対してIAEAによる無条件査察を要求するなど、少なくとも’イラク有罪’の立証には努めている…)。このように考えますと、ウクライナ危機への対応については、第三次世界大戦への道へと追い立てられない、あるいは、戦争利益の発生を防ぐためにも、一先ずは事態を見極め、慎重に構えるべきように思えるのです。