万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

戦争防止の正道-戦争原因の平和的除去

2022年04月29日 11時11分23秒 | 国際政治
力に対しては力を以ってしか対抗できない状況下にあっては、力の抑止力を備える、あるいは、力の均衡を保つことは、必ずしも否定されるべきことではなくなります。’力は正義’という言葉が支配する世界では、利己的他害性を抑制する普遍的な意味での倫理や道徳、そして、合法性は不問に付されてしまうからです。今日、平和主義者によって核廃絶が叫ばれる一方で、核の抑止力が期待されるのも、力による平和の観点からすれば、他に手段を見出すことが非常に困難であるからに他なりません。

しかしながら、人類の歴史を振り返りますと、力のみを以ってあらゆる物事を処理する手段としてきたわけではありませんでした。そうであるからこそ、時間の先端を生きる今日の人々は、未来の人類に対する責任を果たすべく、力が支配する世界から倫理に裏打ちされた法の支配へと向かう努力を惜しんではならないのでしょう。そこで、本日の記事では、戦争を回避するための最も有効な手段として、力に依らない問題の解決方法や解決の仕組みの重要性について考えてみたいと思います。

戦争とは、得てして何らかの個別具体的な対立要因によって発生するものです。世界征服の野望に駆られた戦争は稀であり、アレキサンダー大王の大遠征やチンギス・カーンのモンゴル帝国建設など歴史においても数えるぐらいしかありません。しかも、ナポレオンのフランス帝国であれ、ヒトラーのドイツ帝国であれ、一国家が全世界はおろか、ヨーロッパ全域を征服した例もなく、何れもあえなく失敗に終わっています(もっとも、超国家権力体は世界支配を目指しているようですが…)、その一方で、大多数の戦争は、たとえそれが軍事同盟の連鎖反応によって世界大戦に発展したとしても、その発火点を辿ると二国間の紛争に行き着きます。このことは、戦争をこの世から無くしたいと願うならば、優先的に取り組むべきは、対立要因を武力行使に至る前の段階で解消してしまうこととなりましょう。

戦後の国際社会を見ますと、国連憲章などでは加盟国に対して紛争の平和的な解決を義務付けながら、肝心の解決のための制度や手段の整備を怠ってきたように思えます。国際社会において平和的解決の手段が準備されていれば、武力行使に訴えなくとも、平和裏に対立やトラブルが解決されえるのです。

そこで、政治問題については、双方が対等な立場にあって交渉し得る’協議の場’を提供する必要がありましょう。従来の手続きですと、当事国政府の双方、あるいは、一方が外交ルートを介して相手国に協議の場の設置を打診し、両者が合意、あるいは、申し出を受けた側が了承した場合にのみ、交渉や話し合いが開始されます。このため、一方が拒絶した場合には、協議によって問題を解決する道は断たれてしましますし、当事国の一方が大国である場合には、力関係が影響して中小国が不利になりがちです。当事国間の交渉の対等性を確保するためには、国際機構の内部に加盟国間の協議の場を常設するといった方法もありましょう。この場合、全ての加盟国に同制度の利用を認め、当事国の一国からの申請があった場合(当事国双方の合意を条件としない…)、相手国は、’協議の場’への出席を拒絶できないものとします。ウクライナ危機も、こうしたオープンな制度が存在していれば、事前に回避できたかもしれません。

一方、法律問題については、先ずもって、常設仲裁裁判所のみならず、国際司法裁判所にあっても単独提訴を認める方向での改革を要しましょう。とりわけ、歴史的根拠、並びに、法的根拠に照らして司法判断を下すことができる領有権に関する争いについては、一方の当事国の訴えによって司法解決手段が利用可能となれば、多くの諸国において戦争要因を除去することができます。また、当事国の一方による領有権確認訴訟の形態を新たに設けますと、日本国のように、北方領土問題、竹島問題、尖閣諸島問題など、司法解決が適している問題を抱える国にとりましては、最も望ましい平和的解決の手段となります。さらに、台湾問題も、台湾側が、国際法における独立的な主権国家として自国の地位の確認を求める訴訟を起こすことができれば、中国は、台湾併合を断念せざるを得なくなりましょう。もちろん、国際レベルにあっても司法の独立は厳格に制度的に保障されるべきですし、国内の司法制度と同様に再審制度も設けるのが望ましいのは言うまでもありません。何れにしましても、国家間の対決の場を戦場から法廷へと移すことこそ重要なのです。

地域的な紛争が第三次世界大戦、並びに、核戦争にまで発展しかねない現状は、世界各国に、平和的解決を可能とする制度整備に向けた努力を促す契機なるかもしれません。戦争がもたらす惨状を予測すれば、何れの政府も、厳しい交渉、あるいは、苦い結果となりかねない判決を覚悟しても、対立要因を解消する方が望ましいとする判断に傾くかもしれません。真に戦争のなくそうとするならば、その発生要因を平和的に解決済とする手段や制度の構築こそ、急ぐべきあると思うのです。

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