地域的紛争が世界大戦化するリスクは、加害国側の軍事力に比例して上昇します。しかも、被害国側に軍事同盟が存在する場合、集団的自衛権が発動され、またたくまに全世界に戦火が広がります。現状では、一旦、戦端が開かれる、あるいは、宣戦布告がなされますと、当事国以外の同盟国も交戦国となり、国境を接していなくとも、自国にミサイルが飛来したり、サイバー攻撃を受ける危機に直面します。最悪の場合には、核戦争に巻き込まれる可能性もあるのですから、理不尽といえば理不尽なのです。
そこで、考えられる国際法秩序と世界大戦化の回避との間のジレンマを解く方法の一つは、第三国の軍事行動をめぐって、その要件や行動規範を定めるというものです。要件の設定に際しては、少なくとも(1)集団的自衛権の発動条項を含む軍事同盟条約の有無、(2)国際司法機関による犯罪認定の有無、並びに、(3)当事国の軍事力などによって異なる内容を定めるべきかもしれません。
例えば、(1)の集団的自衛権については、当事国の何れであっても、事後的な軍事同盟への加盟は禁止すべきです。その理由は、加盟と同時に、即、集団的自衛権が発動されて世界大戦へと発展しかねないからです。この条件に従いますと、ウクライナは、NATOにもEUにも加盟することはできなくなります。同国は、EUへの早期加盟を望んではいますが、EUはWEUを引き継いでいるため、集団的自衛権が発動し得るからです。その一方で、ロシアもまた、中国に対して軍事支援を求めたり、全体主義陣営を形成することも不可能となりましょう。同行動規範は、地域的紛争の連鎖的拡大を防止することを目的とします。
なお、先制攻撃は一先ず非防衛的行為と見なされます。このため、先手を打った側の国が軍事同盟を結んでいる場合には、たとえ反撃を受けたとしても、同国の同盟相手国は、集団的自衛権の発動を控えるものとします。
また、先制攻撃側の行動が、必ずしも正当性を欠くとは限りません。今般のロシアのように、ウクライナ側のジェノサイドを訴え、人道的介入が主張されるケースもあり得ます。こうした先制攻撃を行った側が正当防衛権を主張する場合には、事前であれ、事後であれ、あるいは、交戦中であれ、国際司法機関に合法性の判断を求めることを義務付けることとします。中立・公平な立場からの十分な調査の結果として国際司法機関による判断が示されれば、他の諸国も情報の真偽、並びに、どちら側に非があるのかを確認することができましょう。
(2)「国際司法機関による犯罪認定の有無」については、国際司法機関によって国際法上の’犯罪’として認定された場合のみ、原則として、第三国の軍事力の行使を認めるものとします。また、国際司法機関の判断が下された以上、全ての諸国には経済制裁といった他の非軍事的な手段によって制裁を行う義務も生じます。仮に、経済制裁によって攻撃国の戦費が枯渇し、戦争遂行能力が失われれば、事態は収拾に向かうことでしょう。
ただし、先制攻撃は一先ずは違法行為と見なされますので、攻撃を受けた側には、軍事同盟の有無に拘わらず、国際司法機関が判断を示すまでの間、少なくとも個別的自衛権の発動が認められます。仮に、攻撃を受けた側が単独で攻撃行為を排除できれば、同事件における犯罪性の判断や賠償等は、’戦後処理’の一環として国際司法機関に委ねられることとなりましょう。(つづく)