万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ウクライナ危機が複雑である理由とは―全体像は立体的?

2022年04月21日 15時49分26秒 | 国際政治

 ウクライナ危機は、歴史的にも法的にも様々な要因が絡まっており、その解決は容易ではありません。たとえ両国政府の交渉によって停戦が合意されたとしても、抜本的な解決に至るには、まだまだ時間を要するように思えます。それでは、何故、ウクライナ危機は、かくも複雑なのでしょうか。ここで一旦、絡まった糸を解してみる必要がありそうです。

 

 一国家が純粋に軍事力によって他国を侵略し、世界征服を目指すという形態は殆どなく(むしろ、世界の全体的支配は、超国家権力体の最終目的では…)、国際紛争の多くは、領有権や資源等をめぐる争いなど、それ固有な対立要因に起因しています。そして、これらの国際紛争は、凡そ、政治問題と法律問題とに分けることができます。政治問題とは、双方の国益が衝突したり、双方が言い分や根拠を有するケースです。どちらか一方に非がある、あるいは、違法性があるというわけではありませんので、同タイプの問題に対しては、交渉を経た当事国間による合意による解決が適していると言えましょう(司法解決に付された場合でも、和解勧告を受ける可能性が高い…)。長きにわたる歴史において複数の民族が混住してきた地域や複数の民族が入れ替わってきた地域における紛争などは、基本的には政治問題が多いのです。

 

 例えば、今般のウクライナ危機は、ウクライナ東部に居住するロシア系住民の問題が絡むため、政治問題という側面が色濃い事案です。歴史を遡りますと、中世にあってウクライナの首都キーウは、ロシア、ベラルーシ、ウクライナが故地として主張するキエフ大公国の中心地でした。また、近年では、同地域のロシア系住民はソ連邦時代にロシアから移住してきた新来者も多く、必ずしもその全てが同地における古来の住民というわけでもありません。’帝国’とは、それが崩壊した後にも深刻な民族問題を残すものです。

 

 一方、法律問題とは、国際法等に照らして司法的に解決し得るケースです。もっとも、法律問題として解決されるには、問題領域に国際法が適用されている必要があります。今日では、様々な領域や分野にわたって国際法が成立してきており、戦後は、司法解決し得る範囲も飛躍的に拡大してきています。もっとも、国際法がカバーする範囲は広がってはきていても、国際機構にあって十分に司法の独立性が制度的に保障されているわけではなく、判決等の強制執行を行う手続きや手段も確立していないのが現状です。

 

 今般のウクライナ危機に際しても、ロシアによる国際法違反が対ロ制裁の根拠とされており、同危機は、法律問題として扱われています。それではどのような点で同危機が法律問題とされるのかと申しますと、それは、主として紛争解決の手段として武力を用いたことによります。また、ブチャ虐殺事件がロシア軍の手によるものである疑いもあり、同事件については、戦争法やジェノサイド条約といった人道法上の違反行為も問われているのです。このように、ウクライナ危機には、政治問題と法律問題とが混在しております。後者の問題が解決したとしても、前者が解決を見るとは限らず、また、その逆もあり得るのです。

 

 加えて、ウクライナには、国家をあげてユダヤ教に改宗したハザール国の版図と重なる地域もあり、ゼレンスキー大統領をはじめ、ウクライナには、ユダヤ教徒も多数居住しています。アシュケナージとも称されるユダヤ教徒なのですが(ハザール起源説には否定的見解もある…)、これらの人々の人脈は、近隣のポーランドなどの中東欧諸国のみならず、アメリカといった米欧諸国にも広がっています。因みに、オバマ政権にあって第68代国務長官を務め、現バイデン政権でも気候問題担当大統領特使を務めているジョン・フォーブス・ケリー氏も、その祖先は、チェコから移民してきたアシュケナージ系です。今日、アメリカのバイデン政権が、積極的にウクライナに肩入れする理由の一つには、アメリカにおけるユダヤ系ネットワークとの繋がりを指摘することができましょう。超国家権力体の中枢でもあるユダヤ人脈に注目しますと、ウクライナ危機は、従来の国家間の二次元戦争に見えながら、その実、三次元戦争の側面が表面に浮かび上がってしまった極めて珍しいケースであるのかもしれません。

 

 以上に述べましたように、ウクライナ危機には、政治問題と法律問題の両者が含まれていることに加えて、ユダヤ系ネットワークとの繋がりというウクライナ特有の要因によって、問題の複雑性が増しています。この点を考慮しますと、同問題の解決には、平面的な二次元の視点のみならず、全体像を立体的にとらえる三次元的な視点が必要なのではないかと思うのです。


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