今般のウクライナ危機は、ロシアの脅威のみならず中国による台湾や尖閣諸島等への進攻という懸念をもたらしています。ウクライナ危機の場合、先日のロシア軍のキーウ撤退により、ロシアがウクライナという国家そのものを軍事占領する可能性は低くなり、第三次世界大戦への拡大リスクも低下したようにも見受けられますが、今後の中国による侵略、並びに、第三次世界大戦への誘導(三次元戦争のケース)を事前に阻止するための備えは喫緊の課題です。
とは申しますものの、国連の枠内であれ、枠外であれ、国際犯罪国家に対する軍事力の行使が、たとえそれが国際法の執行行為であったとしても、平和と戦争との間に解きがたいジレンマをもたらすことは、昨日の記事で述べました。将来の方向性としては、国連の終焉(ロシアの国連人権理資格停止は、国際聯盟時代のようなロシア除名の予兆…)、並びに、国連の機構改革の凡そ二つがありましょう。そこで、本日は、後者について述べてみることとします。
それでは、国連は、法の執行機関について、どのように改革すべきなのでしょうか。先日、権力分立の原則を組み入れるべき旨の記事を書きましたが、国際法の執行機関の確保という課題につきましては、先ずは、紛争の解決手段として武力が行使された場合、一先ずは、これを平和的手段による解決を義務付けている国際法に対する違法行為と推定し、それを止める警察機能を担う執行機関の設立案からプローチしてみることとします。
第1のメリットは、軍事力を行使する地理的範囲の限定化です。武力行使は、特定の国家による他国に対する侵害行為に端を発しますので、発生当初にあっては、戦場は被害国の領域に限られています。ところが、被害国側が他国と軍事同盟を結んでいますと、第一次世界大戦、並びに、第二次世界大戦の事例が示すように、同盟各国の連鎖的な参戦によって瞬く間に戦火が全世界の諸国に広がり、国家・国民を上げた総力戦となると共に、全ての国が戦場になり、破壊を受ける可能性があり得ます。その一方で、国際法の執行行為であれば、軍事力という強制力が行使される地理的範囲は、侵略が行われている地域に留めることができます。あくまでも、’執行部隊’の活動の範囲は、原則として侵略地に限定されることになるのです。
第2のメリットは、戦闘行為のエスカレートの防止です。’執行部隊’が達成すべき任務は、戦争における勝利ではなく、中立的な立場から(1)戦闘状態にある両軍の間に立ちはだかって兵力を引き離す、(2)侵略軍が一方的に進軍、あるいは、攻撃している場合にはそれを阻止する、(3)侵略軍を押し戻し、被害国の領域外に追い出す…等が主たる役割となりましょう。目下、米軍をはじめNATO諸国は、武器の間接的貸与という形であれウクライナを支援していますが、’執行部隊’の場合は、被害国に加勢するのではなく、あくまでも、’同部隊’に託された任務を遂行するに留まります。
第3のメリットは、民間人の犠牲者を極力減らすという点です。’執行部隊’による軍事行動の主たる任務は、兵力の引き離し、侵略軍の進軍阻止、並びに、侵略軍の被害国領域内からの追放ですが、こうした任務は、現地の住民保護の役割をも兼ねます。これらの任務は、いわば、’執行部隊’が’盾’となることを意味しますので、住民は、侵略側であれ、被害側であれ、何れの軍隊から略奪、暴行、虐殺を受けるリスクが著しく低下するのです。住民と軍隊が直接に接触することもなくなるからです。
第4のメリットは、事後的な処理や真偽の確認等も容易となることです。侵略を受けた地域は一時的であれ’執行部隊’によって管理されることになりますので、中立・公平な立場からの事後的な検証が可能となる状況が提供されます。戦場において行われた虐殺行為等の戦争犯罪についても、一方に偏ることなく証拠等を収集し、真相を明らかにすることができることでしょう。この側面は、ロシアが自国の軍事行動について人道的介入、即ち、ウクライナのアゾフ大隊に対する国際法上の正当防衛を主張した今般のウクライナ危機のように、双方が自国の合法性を主張したため、戦争の発端が曖昧なケースにおいても効果的です。紛争地域が’執行部隊’の管理下にあれば、事後的であれ、中立・公平な機関によって真相が究明されることとなりましょう(同捜査機関は、’執行部隊’とは別に設置…)。なお、報じられているようなウクライナ検察との協力に基づく国際刑事裁判所の調査では、完全に独立的な立場にはありませんので、公平性が欠けているように思えます。加えて、ウクライナのような複雑な歴史を辿ってきた多民族混住地帯にあっては、改めて今後の統治体制について当事者たちが協議し、平和的な手段で解決する機会を準備することとにもなりましょう。
以上に主たるメリットを述べてきましたが、制度的に中立・公平性が保障された’執行部隊’あるいは’執行機関’をどのように結成するのか、といった問題はありましょうし、陸海空における戦闘のみならず、ミサイル攻撃に対する有効な対処方法も検討してゆく必要もありましょう(被害国に対するミサイル迎撃システムの貸与・配備…)。また、今日にあって、軍事面における研究・開発は攻守の二面を中心としてなされてきましたが、円滑、かつ、効果的な兵力引き離しや攻撃停止等を可能とするための新たな戦術や先端的なテクノロジーの研究・開発も必要とされるかもしれません。詰めてゆくべき点は膨大な数に上りますが、それでも、破滅的な第3次世界大戦を避ける努力を、人類は惜しんではならないと思うのです(もちろん、本案は試案に過ぎず、他の方法や国連なき安全保障の在り方についても考えてみる必要がある…)。