廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

文物としてのハードバップ

2014年04月06日 | Jazz LP (Europe)
不完全燃焼な欧州のハードバップは先週のCDに限った話ではない。 昔から顕著に見られることです。



Georges Arvanitas Quintet / Soul Jazz ( 仏Columbia FPX 193 )


ハードコレクターにはよく知られたレコードで、稀少盤であることは間違いないですが、当初は再発されないされないと騒がれ、
再発されればされたされたと騒がれ、セールやオークションに出れば出た出たと騒がれ・・・・ でも、肝心の音楽はさほど騒がしくありません。

革新的な実験音楽だったビ・バップはそのトリッキーさ故にあっと言う間に人々を惹きつけはしたが、飽きられるのも早かった。
そこでR&Bやソウルミュージックのメロディーとハーモニーを取り入れ、アドリブの際の音数を減らし、より音楽的に仕立てたのがハードバップです。

このレコードはビ・バップの巨人が作ったオリジナル曲をハードバップとしてリアレンジして演奏しているところに大きな特徴があります。
このアルバムを褒める人が多いのは、本来は単純なリフのみの音楽的には退屈なビ・バップの曲をリッチ・ハーモニーでコーティングした甘味豊かな
口当たりの良さに驚いたからです。 こういうやり方はハードバップが生まれた経緯と重なるところがあるので方法論としては正しいわけですが、
その素材をビ・バップの曲に求めたのがユニークで、当時のアメリカの演奏家がやらなかったことです。 アメリカのミュージシャンたちはビ・バップから
脱却するんだという目的があったから当然違う曲を演奏するんですが、ジャズが輸入品だった欧州ではそういう感覚がなかったのでしょう。

アルバニタがバド・パウエルやセロニアス・モンクに心酔していたのは当然だろうし、収録された曲の半分以上が彼らの曲になっているのは不思議では
ないのですが、ハードバップのアルバムでこういう構成のアルバムは珍しいわけです。

このアルバムを聴いていて強く思うのは、60~70年代に日本で作られたジャズアルバムと雰囲気が似ているなあ、ということです。 
ただ、日本ではハードバップが単にコピーされていただけなので、双方の知性には随分と開きがあった。

このアルバムが奇しくも "Soul Jazz" というタイトルが付けられたのは偶然ではないのです。 それは、"ハードバップ"と同義語として使われている。
彼らの耳にはハードバップは "ソウルフル" に聴こえていた。 ただし、それは文物としてのハードバップだったので、アメリカのジャズとは少し違う
音楽にならざるを得なかったんでしょう。



同じフランスのレーベルに、同じようにハードバップを志向した別のアルバムがあります。



Roger Guerin / Benny Golson with Bobby Timmons ( 仏Columbia FP 1117 )


でも、これは失笑を買うことが多いレコードです。 だって、明らかに反則技を使っているんですもんね。

メンバーが違うだけでこんなにも濃厚なハードバップになるなんて、ジャズというのはある意味怖ろしい音楽だなあと思います。
おかげで、一体誰のリーダーアルバムなのかよくわからないことになっています。 レコード会社はしめしめと思ったんでしょうが、
ロジェ・ゲラン本人は内心おもしろくなかったんだろうなあ、と気の毒になります。



コメント
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