廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

ベルギー貴族のハーモニカ

2016年05月01日 | Jazz LP (Riverside)

Jean Thielemans / Man Bites Harmonica !  ( 米 Riverside RLP 12-257 )


トゥーツ・シールマンスのことを一番よく知っているのは、おそらくジャズ愛好家だ。 その音楽的キャリアはジャズからスタートしているとはいえ、
ハーモニカ、ギター、口笛、という唯一無二のキラー・スタイルであらゆる音楽分野に招かれて作品を残しているにも関わらず、ジャズ愛好家だけが
この人のことをよく知っているというのは、なんだか不思議な気がする。 彼が作ったジャズのアルバムだって、その内容はジャズの主流とはとても
言えないにもかかわらず。

ベルギーの貴族、という血筋と育ちの良さからか、この人の奏でる音にはちょっと世俗の汚れを寄せ付けないような典雅で無垢なところがあって、
1度聴いたら誰もが魅了される。 ジョン・レノンがトゥーツに憧れてリッケンバッカーとハーモニカを使った、というのは有名な話だけれど、
ジャンルを超えて人々を惹きつけるというのはすごいことだ。

1952年にアメリカに渡って活躍を始めるが、リヴァーサイドに幸運にも作品を残すことができた。 ペッパー・アダムスを入れることで、トゥーツだけでは
軽くなってしまうサウンドに重みを持たせることに成功している。 アダムスはいつも通りの好演を聴かせ、そして何よりケニー・ドリュー以下のトリオが
おそろしく出来がいい。 このアルバムの人選は完璧だと思う。 ブルーノートやプレスティッジでは決して聴くことができない、上質なモダンジャズに
なっている。 リヴァーサイドというレーベルは、こういうところに強みがあった。





Toots Thielemans / Toots' Quartet  ( 仏 DECCA AM 233012 )


遡ればSP期にまで辿り着く彼のディスコグラフィーの中で、おそらくは最も初期の録音の1つ。 ジャケットにもレーベルにも生産国の記載がないが、
おそらくフランス・デッカの10インチで、オルガントリオをバックにした演奏。 ジャズというよりは催事場のBGMなんかで流れているような軽快で罪のない
ポピュラー・ダンス音楽のような内容で、完全に好事家向きのレコード。 彼のルーツがどんなものだったかを知ることができる、というくらいの価値で、
ジャズ愛好家には不要なレコードだと思う。 この頃から、トゥーツのハーモニカは既に完成していたことがわかる。



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