廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

ブートレグの存在意味

2016年05月14日 | Jazz CD

Miles Davis / Live in Europe 1967, The Bootleg Series Vol.1  ( Sony Music Entertainment 88697 94053 )


今年は少しマイルスのブートレグを聴いてみよう、と思っている。 ジャズに限らず、どんなジャンルでもこれまでは基本的にブートレグには興味がなかった。

そもそも、正規発売のものだって全て聴いているわけでもないのに、それらを差し置いてブートを聴くなんてことは普通はしないだろうし、やはり音質の
悪さと演奏の出来の不揃いさに失望することがほとんどだから、というのがその理由だったのだが、これを聴いてすっかり考え方が変わってしまった。

第二期ゴールデン5の最後の演奏ツアーの様子を収めたものだが、これが演奏が素晴らし過ぎて、更には音質も良くて、すっかり夢中にさせられた。
元々ブートマニアにはよく知られた音源だそうだし、これが正規発売になった時にはかなり大きな話題になっていたのは憶えているが、まさかここまで
内容がいいとは思いもしなかった。 これまで聴いてこなかったことが悔やまれる。

プラグド・ニッケルの2年後の演奏なので一体どんな演奏になっているんだろうと興味津々だったが、演奏スタイルはそれよりもずっと纏まったものになっていて、
予想外の驚きだった。 ハービーはしっかりとピアノを弾いているし、ショーターもよりまろやかでブリリアントな音色へと成熟しているし、トニーの
ドラミングも激しさだけでは終わらない佇まいがあって、いい意味で大人っぽくなっている。 そして何より、マイルスのトランペットの音の輝きが
素晴らしい。 珍しく音数もいつもより多く吹いていて、調子が良かったのがよくわかる。

ミュージシャンというのは、その生活の大半がライヴ活動だ。 我々のような変態オタクはついレコードやCDだけが音楽家の全てだと思い込みがちだが、
実際はまったく違う。 だから、ミュージシャンという仕事を長く続けられるかどうかは、基本的に各地を飛び回りながらライヴ活動ができる気力と
体力があるかどうかにかかっているといってもいい。 そういう生活に耐えられない人は、音楽を生業にはできない。

私はマイルスの正規発売された作品は全て聴いているけれど、それだけではマイルスの実像を把握するには遠く及ばないのだということを最近強く感じる
ようになってきていて、十分繋がり切れていないミッシングリンクの箇所を補うのがこれらのブートなのだと認識を新たにするようになった。

ブートレグは本質的には音楽鑑賞のためにあるのではない。 だから、音質がどうのこうのというのはまったく意味がない。 この1967年のライヴ盤は
例外的に音がいいだけであって、他のものはまったくダメなのは承知の上で少しずつ聴いていこうと思う。 まずは一番好きな第二期クインテットの時代の
ものから手をつけたい。 このバンドの演奏ならどんな音源だろうと、すべて聴く価値がある。



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