Sarah Vaughan / Hot Jazz ( 米 Remington RLP-1024 )
昔は幻の1枚として高額だったこのレコードも、今じゃ立派な安レコ。 現代においてはもはや「稀少」や「レア」という言葉は本来の意味が機能として
失われている。 そして、ジャズ創成期を支えた大物たちは徐々に忘れられつつあるのかもしれない。
長年続けられた過去の名盤ばかりを有難がる風潮に飽き飽きした反動で現代ジャズを称える動きが出ているのはいいことだけど、そこでも実態以上の
過剰な称賛がちらほら出るようになっていて、反動としてのモーメントの大きさがそうさせていることは理解できるけど、違和感を覚えることも少なくない。
一線を越えるとクラブ・ジャズや欧州ジャズのような末路を辿ることに成り兼ねないから、適切なコントロールの下に進行してくれるといいと思う。
まあ、たまにはこういう古い音楽も聴いて、バランスを取ることも必要なんじゃないだろうか。
1944年12月31日のセッションと1945年5月25日のセッションの2つの音源が収録されていて、特に後者はパーカーが参加している重要な音源だ。 18歳だった
彼女がアポロ劇場のアマチュア発掘コンテストで賞を取ったのが1942年の秋だから、プロの歌手としてスタートして間もない時期の歌唱ということになる。
フレーズ回しにはまだ未熟さが残っているけれど、この時期の彼女の伸びやかで清楚な声質は素晴らしく、私が最も好きな女性歌手としてのサラ・ヴォーンの
一番好きな時期の歌が聴けるのが嬉しい。 そして、"Mean To Me" で鳴るチャーリー・パーカーの野太いソロも素晴らしい。 それは尺としては短いけれど、
その存在感やインパクトは圧倒的で、今風に言えば「神アルト」ということだ。
当然SP録音で、LP10インチになった時にはジャケットが紙ペラのものや厚紙のもの、レーベルもコンチネンタルやレミントンなどが使われていて、
装丁としては数種類ある。 ただ、どの装丁であっても40年代の録音であるということが足を引っ張ることなく音質は良好で、音楽の素晴らしさを
ありのまま享受できる。