廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

最後のドイツ公演

2018年03月14日 | Jazz LP

Bill Evans / His Last Concert In Germany  ( 独 West Wind WW 2022 )


ビル・エヴァンスが亡くなるちょうど1カ月前の1980年8月15日ドイツでの録音で、彼のファンにはよく知られている演奏だが、私は初めて聴いた。
愛好家からは高く評価されている演奏だったので常々聴いてみたいと思っていたが、ようやく安いのを見つけた。

最初に驚くのが、レコードから出てくる音。 後期及び晩年のライヴでこれまで聴いた音源の中では、これが一番まともな音ではないか。
ちょっとオーディオ的な手心が加わっている感じではあるけれど、それでも靄で霞んだようなところがない音でエヴァンスのピアノが聴けるのは嬉しい。
ベースも重低音が効いた特殊な処理が施されており、ボリュームを上げると部屋の中が不気味に揺れる。

エヴァンスの演奏はこの時期らしい、フレーズを切れ目なく次から次へと紡いでいくスタイルで演奏を先導し、マーク・ジョンソンとラバーベラがそれを
下支えする。 エヴァンスは若い頃は間合いを十分取りながら短いフレーズを積み上げる弾き方だったが、後期は切れ目なく長いフレーズで演奏するように
なっている。 でも、これはエヴァンスが変化したというよりはジャズという音楽全体の演奏の様式がそういう風に変化したことに影響されている。
ジャズはビ・バップ→ハード・バップ→ニュー・ジャズと進む中で、演奏されるフレーズのセンテンスが徐々に長いものへと変化していっている。 

エヴァンスはゆっくりと時間をかけて進行する病気が原因で亡くなった訳だから、この時も体調は悪かったはず。 でも、この演奏の中からはそんなことは
まったく感じることはない。 意志を感じる力強い音は輝いている。 

私がエヴァンスが好きなのは、何よりもそのきれいな打鍵タッチである。 それがあの独特の強い音を生んでいて、エヴァンスの演奏活動すべての時期で
聴くことができる。 その中でも、これはエヴァンスのピアノがクリアに聴こえるいいレコードだった。


コメント (2)
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