Cubic Zero / Flying Umishida ( 野乃屋レコーズ Nonoya 003 )
待望の吉田野乃子さんの新作ということで、楽しく聴いた。 先週届いて、今週の通勤の行き帰りで聴いていたから、1週間で10回は聴いたことになる。
新譜を買うことがほとんど無くなってしまった現在、こういうのは私にしてみれば珍しいことで、今は新作が待ち遠しい数少ないアーティストの1人だ。
今回は前作とは打って変わり、ザ・エレクトリック・バンドになっているが、私は今回のサウンドの方が好みだ。 冒頭の出だしから、あ、これはいい、と
すぐに思った。 そこから最後まで一気に訊き通せる。 途中でダレるところもない。 よく出来ているなあ、というのが素直な感想だ。 じゃなきゃ、
10回も続けて聴こうとは思わない。
最近は60~70年代のフリージャズの作品への興味が薄れてしまってほとんど聴かなくなっている。 まあ聴き過ぎてちょっと飽きたというのもあるけど、
その頃の音楽には「時代の空気に強制されてやってました」という側面が多かれ少なかれあって、それがだんだん煩わしく感じられるようになってきたからだ。
「座ってきれいなメロディーを吹いている場合じゃなかった」というブロッツマンの言葉に象徴されるように、そこにはある種の閉塞感が漂っていて、
それがこの分野の音楽を重苦しいものにしていた。 そして、このまま行っても先はないんじゃないか、ということに気付き始めた気配が作品の中に
現れ出すようになる。 コルトレーンのように自分が始めたやっかいな音楽の後始末を自分ですることなく逝ってしまうことに嫉妬したアーティストも
中にはいたんじゃないだろうか。 荷が重すぎて結局は抱えきれず、路上生活に堕ちる人も出始めた。
そういうこととは遠く距離を置かれているから、私はこのアルバムが好きになったのだろうと思う。 この5人は自分たちが今一番面白いと思っている音楽を
楽しんでやっているように見える。 そういう純粋さが感じられたからこそ、こちらの心も動かされたのだと思う。 形式上、それがアヴァンギャルドなのか
主流派なのかというようなことは、当たり前のことだがどうでもいいことだ。 ICPやFMPには感じられなかった「純粋な愉しさ」がこのアルバムには
こぼれんばかりに溢れている。 それが素直に表現されていて、何より素晴らしいと思った。
今作はグループとしての音楽だからアルトサックスは1人だけで前に出るということはなく、他の楽器と互角な位置にいる。 私は彼女のサックスの音が
好きなのでもっとたくさんその音が聴きたかったけれど、まあそれは次のお愉しみにとっておくことにしよう。