Joe Henderson / Barcelona ( 独 Enja Records 3037 )
ジョー・ヘンダーソンをしつこく聴いているけれど、結局手元に残る盤は少ない。 例えば70年代のマイルストーン時代は作品数は多いがその大半が
クロスオーバーなもので、どれも力作だとは思うけれど、1度聴けばまあ十分かな、というものばかりだったりする。
そういう時、我々は不用意につい「駄作だ」と言って切り捨ててしまうけれど、丁寧に聴いていくと駄作にもそうなった理由がちゃんとあることがわかってくる。
彼の場合だって、別に急にイマジネーションが消えてしまったわけではない。 それは単に時代が別のものを要求したからに過ぎないのだ。 生き残るには
そういうものだって飲み込んで行かざるを得ず、さもなければ消えるしかなかった。 コルトレーンやブラウニーが70年代に生きていたとしても、たぶん同じような
感じだっただろうと思う。 ロリンズ、モンク、エヴァンスを見れば、それは一目瞭然だ。 1970年代は誰にとってもとにかく我慢の10年間だった。
そんな暗黒時代も70年代末頃から変化の兆しが現れ始める。 その第一発目がこの "Barcelona" だった。 巷ではフリー・ジャズのように言われているけれど、
実際は違う。 ピアノレス・トリオで、非常にビターな演奏をしているだけだ。 それまでの鬱憤を晴らすかのように、苦み走ったドライな演奏をしている。
これがとにかくカッコいい。 抑制されて硬質なテナーの音色にシビれる。
なぜ、突然エンヤから発表されたのかはよくわからないけれど、それまでの迷走ぶりが嘘のようなアコースティック・ジャズで、この後は80年代の主流派の復権に
呼応するかのように作品を順調に発表するようになる。 これはその幕明けに相応しい、素晴らしいアルバムだ。 このレコードは音も極めていい。