廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

おそらく彼女は迷っていた

2018年08月18日 | Jazz LP (Bethlehem)

Nina Simone / Little Girl Blue  ( 米 Bethelehem BCP-6028 )


ベツレヘムのレコードは盤もジャケットもきれいなものが他のレーベルと比べて特に少ないような気がする。 カタログ内容のほとんどが私の興味の対象外だから
別に構わないんだけれど、それでも何枚か探しているものがあって、その1枚がこのレコードだった。 これは特にきれいなものがなくてもう半ば諦めていたけれど、
ようやくまともなコンディションのものが見つかった。 且つ、値段も今まで見た中では一番安かった。 今月は何だか怖いくらいツイてる。

この時、彼女は歌手としてやっていくか、それともピアニストとしてやっていくか、で迷っていたんじゃないだろうか。 ジュリアードに学び、カーティス音楽大学への
進学すら考えていた彼女のピアノ演奏の圧倒的な素晴らしさが全編で聴ける。 彼女は人の心を揺さぶる歌を歌うことができる稀有な歌い手だけど、このアルバムは
それ以上にピアノが凄い。 彼女のピアノトリオのレコードが残されなかったのは非常に残念なことだと思う。 もしそれが残っていれば、ジャズ史における
ピアノトリオの名盤のラインナップは今とは違ったものになっていただろう。 ここでは力の入れ様が、7:3くらいの割合でピアノの方が勝っている。 

"Good Bait" をこんな風にドラマチックに解釈して演奏した例が他にあるだろうか。 まるでホロヴィッツのピアノを聴いているかのようだ。
そして、続く "Plain Gold Ring" でのフォークテールの語り部のような歌。 更に "You'll Never Walk Alone" のクラシカルなピアノ。
この辺りはもう凄すぎて、眩暈がする。 決して大袈裟な話ではなく。

彼女はデビューの時点で、既に何もかも超えてしまっている。 これを聴いてしまうと、他のレコードがどれも色褪せて見えてくるから恐ろしい。


コメント
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