Walt Dickerson / Relativity ( 米 New Jazz NJ 8275 )
1961年にデビューして翌62年まで New Jazzレーベルに録音を数枚残したけれど経済的にやっていくことができず、一旦ジャズ界からは離れることになった。
時期的にはちょうどジャズ業界は新しい感覚のジャズがハード・バップを駆逐し始めていた頃で、その真っ只中にデビューしたというのは運が悪いにも程があった。
聴く側も演る側も価値観がグラグラと揺れていたんだから、そこに安定した基盤などは初めからなかったのだ。
そんな状況の中で、ディッカーソンは非常に生真面目に音楽をやっている。 演奏の腕を磨き、新しい語法を持った共演者を注意深く選び、アルバム全体を
仄暗く憂いの表情で統一させている。 音楽には集中力と纏まりがあり、デビュー間もないアーティストの音楽だとはとても思えない。
B面の真ん中に置かれた "Sugar Lump" なんて、まるでマイルスの "Kind Of Blue" にも共通した雰囲気があるし、"Autumn In New York" は落ち着いて
透明度の高い質感に仕上げていて、どれも感心させられる。 ピアノの Austin Crowe という人はディッカーソンのアルバム以外では見た記憶がないけれど、
現代的なセンスを先取りしているような過不足のないとてもいい演奏をしていて、音楽の上質さをこの人が支えている。
ミルト・ジャクソンに飽きた聴き手には歓迎される新しいヴァイブのジャズだし、内容は極めて優秀だし、ということでもっと評価されていいはずだけど、
人目に付くにはいささか生真面目過ぎたのかもしれない。 ニュー・ジャズと言うにはあまりにも正統派過ぎて、そういう面でも損をしている。
でも、そういうところがきちんとわかる人には、この音楽は決して風化することなく、これからも支持されていくだろう。