Milt Jackson / "Live" At The Village Gate ( 米 Riverside RM 495 )
例えば仕事帰りの帰路の途中にこういう名門ナイトクラブがあって、フラリと立ち寄ったらこんなライヴがやっていた、というのが憧れだったりする。
わざわざ路線を変えて電車を乗り継ぎ、駅からかなり歩いたりするのは嫌だ。 職場から駅までの途中だったり、駅から自宅までの道の1本裏だったり、
せいぜい途中下車した駅の目の前だったり。 もしそうだったらどんなにいいだろう、と思う。 その日は、1番気に入っているスーツを着て行くのだ。
このアルバムはそういうことを夢想させる、雰囲気抜群のライヴが聴ける。 特に目新しいことは何もなく、ただ自分達らしい音楽を演奏しているだけで
寛ぎに満ちたムードがその場に充満する。 それは気怠いような弛緩した空気ではない。 5人は注意深く真剣に演奏していて、聴衆をリラックス
させようというより、きちんと自分達の音楽を聴かせようとしている感じで、それが却っていい結果を産んでいるのだと思う。 音楽は緻密で真面目で、
でもとても親密な空気感なのだ。
ピアノはハンク・ジョーンズで音楽を下支えさせればこの人の右に出る者はいないし、テナーのジミー・ヒースは出しゃばることなくミルト・ジャクソンの
プレイに静かに寄り添う感じで、5人のバランスの良さと調和の高さがこの日のヴィレッジ・ゲートを特別なものにしている。 ミルトの演奏も音数が
上手く制御されていて、上質で洗練されたジャズに仕上がっている。 これは持っていて本当に良かった、と思えるアルバム。