廃盤蒐集をやめるための甘美な方法

一度やめると、その後は楽になります。

十分元は取れた

2016年04月16日 | Jazz LP (復刻盤)

Bill Evans / Some Other Time ~ The Lost Session From Black Forest  ( Resonance Records HLP-9019 )


時間が無くて1週間聴かずに寝かせていた話題作、ようやく聴くことができた。 結論から言うと、私は大いに楽しめた。

このレコードは2枚組で、21曲収録されている。 おそらく収録当時に普通に発売されていたら取捨選択されて1枚として発売されていただろうから、
レコーディングされたすべての曲が今回発売されたのであろう。 つまり、出来のイマイチな演奏も「込み」での発売ということだ。
まずはそれを理解しておく必要がある。 だから、"How About You?" のような投げやりな終わり方をしている曲や、ソロピアノなのに精彩に欠ける
"Lover Man" のような曲も中には含まれている。 逆に、"Baubles, Bangles And Beads" や "What Kind Of Fool Am I?" のようなとても良い演奏ももちろん
当たり前に含まれている。 

60年代後半の一般的にはあまり評価されていない時期のエヴァンスの演奏だが、収録された曲を聴いていると、ありふれたスタンダードをいつものスタイルで
「異化」させようと懸命に取り組んでいるのがよくわかる。 それが上手くいっているトラックもあればそうでもないトラックもあるけれど、真摯に演奏に
取り組む姿が鮮明に伝わってくる。 何を弾いても神懸かっていた時期は既に過ぎ去ってしまったけれど、それをわかった上でベストを尽くそうとしているのが
よくわかるのだ。

ドラムの音が奥に隠れてしまってよく聴こえないようなマスタリングになっているけれど、私はエヴァンスとディ・ジョネットの相性が特にいいとは思わないので、
これはさほど気にならない。 少なくとも、それが気になって音楽に集中できない、というようなことはなかった。 また、残響が希薄で音圧が低いというのも、
アンプのボリュームをいつもより上げればピアノの音は一皮むけた音で鳴るので、これも特に問題ないと思う。

"IT's All Right With Me" でのピアノの粒立ちの際立った音の連なりには目を見張るものがあるし、"Wonder Why" でのコードワークは如何にもこの人らしい。
このアルバムを聴いて、初めて "What Kind Of Fool Am I?" という曲の魅力がわかった。

第一印象でノックウトされたり、声高に傑作だと騒ぎ立てるような内容ではないけれど、この時期の他の作品と同じようにじわじわと心に沁みてくるような
内容ではないだろうか。 曲を選別して1枚にまとめたほうが作品としての印象はきっと良かっただろうと思うけれど、私にはこんなにたくさんエヴァンスの
初めての演奏に接することができた歓びのほうが大きい。 十分元は取れたと思う。 シリアル番号は、1390 / 4000 だった。

 

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2 コメント

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まさに、 (ken)
2016-04-18 17:56:27
まさに、そのとおりですね。
アルバムとしては1枚分。テイクを厳選すれば、この時期としては良いアルバムですね。ただ、この時期のMPSの録音には聞こえないのですが、如何ですか?ドラムはともかくとして。
>第一印象でノックウトされたり、声高に傑作だと騒ぎ立てるような内容ではないけれど、この時期の他の作品と同じようにじわじわと心に沁みてくるような
内容ではないだろうか。 曲を選別して1枚にまとめたほうが作品としての印象はきっと良かっただろうと思うけれど、
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Unknown (ルネ)
2016-04-18 19:12:29
う~ん、どうなんでしょうか…私、MPSはあまりたくさんは聴いてないんですよ・・ クラーク・ボラーン・オケはかなり凝りましたけど、それくらいかなあ。 よく、ハンプトンホーズとかはいい音だといいますね。 でも、クラーク・ボラーンだってフェリーニとかライヴの一部とかは意外にこもった音質ですし、ジム・ホールの作品だってプアな音質でした。 全部が全部いい音だった、というわけでも無いんじゃないでしょうか。 それに、マスタリングは最近のアメリカ産です。 当時のヨーロッパの美意識を求めるのはもう無理のような気もします。 音質への審美感もかなり変わってきているのは、まあ間違いないとも思います。
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