Bill Evans / Waltz For Debby ( 日本ビクター SMJ-6118 )
日本ビクターが75年にリリースした第2回目のプレス。この時に選ばれたマスターはアメリカのマイルストーン・レーベルのマスターだった。
だから、第1回目のペラジャケとは当然音が違う。マイルストーン・レーベルのマスターは以前このブログでも取り上げた通り、キープニューズが
版権を買い戻してファンタジー社のエンジニアにリマスタリングさせたものだが、どうやらビクターも更にマスタリングし直しているようだ。
マイルストーン盤のナチュラルさをベースにしながらも、各楽器の音の輪郭が格段にクッキリとしていて、より生々しくなっている。
1番改善されているのはモチアンのブラシで、音圧が上がり、音楽がより踊っている。このアルバムの成功の立役者がモチアンだったことが
この版を聴くことで初めて明らかになる。
そして、店内の客の会話がより遠くの席のものまで聴こえ、店員がグラスをかたずける様子も非常に生々しく聴き取れる。
これが音場感の奥行きを作り出していて、あたかも自分が店内に座っているような感覚を生み出すのだ。
エヴァンスの音も美しく、ラ・ファロのベースも音が締まり、音楽の真価が目の前に立ち現れてくる。
"Milestone" でスティックに持ち替えたシンバルの音の質量の変化までが手に取るようにわかる。
アメリカのステレオ・オリジナル、国内初版、そしてこの盤へと聴き進んでくると、ここで急にサウンドの視界がクリアになり、
高級な質感に変わることが明瞭で、これは否定のしようがない。オリジナルのクラシックとしての魅力は認めつつも、
そういうものを一旦横に置いて聴いてみると、日本ビクター盤が披露して見せたこの音の世界は、このアルバムの真価を改めて
世に問い直した瞬間だったのではないだろうか。
70年代はレコード制作の質が世界的に大きく劣化した時代。チープで粗悪なジャケット、薄くペラペラのレコード盤で物としての有難みが
急速に堕ちていったが、そういう時代に厚紙ジャケット、丁寧な仕上がりのプレス、そして何よりも音楽の質的転換をももたらした音質の向上を
やってのけた日本ビクター盤の存在意義はあまりに大きい。