Cecil Taylor / The Willisau Concert ( スイス Intakt CD 072 / 2002 )
セシル・テイラーの晩年のCDがゆっくりとだが増え続けている。 見かけるたびにぽつりぽつりと買っていると、いつの間にか20枚近くまで増えている。
同一アーティストの架蔵CD枚数としては、ついにこの人がトップに躍り出た。 どの演奏も示唆に富んでおり、聴き飽きることがない。
最近のお気に入りはこの演奏。 スイスのヴィリザウで毎年夏に行われるジャズ・フェスティヴァルに2000年に出演した模様を収録したもの。
とても音質が良く、テイラー独特の強くコクのあるタッチが愉しめる。 エヴァンスやパウエルも長生きして、こういう音質で作品を残してくれていたら
どんなによかったか、と考えずにはいられない。
全体的に流れるようなフレーズを紡ぐことに集中していて、滴り落ちるようなピアニズムの雫を浴びることができる。 ピアノという楽器の音や演奏を
こんなにも堪能できるということが何よりも素晴らしいことだと思う。 このピアノの確かな手応えは、完全にクラシック音楽のピアノと同一のものだ。
ジャズという音楽の範疇はとうに超えている。
長い1曲目の後半、ふと、"Ghost Of A Chance" のフレーズの断片のようなものが現れる箇所がある。 それはあまりに唐突に現れて、瞬く間に消えて
しまうけれど、その後しばらくはテイラーの脳内ではこの唄が流れているのではないかというこちらの想像上のメロディーと実際に鳴っているピアノの
フレーズが2重で聴こえているような錯覚に陥る時間を体験することができる。 普段ジャズを聴いていて、こんなトリップ感覚を経験できることはないだろう。
どことなく、これまでのソロ演奏のものよりも叙情的な印象がある。 純粋にピアノを弾くことを愉しんでいるような気配すらある。 フォルテッシモと
ピアニッシモとの対比のバランスも絶妙だし、あまりに自然過ぎる無調感が部屋の中の透明度を深めるかのようで、これが本来のあり方なのではないか
という気にすらさせる。 晩年のテイラーの音楽は、間違いなく到達点に達していると思う。 でなければ、こんな感銘を受けるわけがない。
これは柔らかいですね。彼のタッチが変わっていることがよく分かるし、昔よりも聴きやすく、リラックスして聴くことができることに驚きました。
>ピアノという楽器の音や演奏をこんなにも堪能できるということが何よりも素晴らしいことだ
==>全く同感です。
聴かれましたか。 仰る通りで、昔の硬さが取れて、とてもしなやかになってますよね。 ピアノという楽器の素晴らしさを教えてくれます。 その道一筋、というのはさすがです。 kenさんのように現代音楽を聴かれる方なら、こんあの何の違和感もなく聴けるはずです。