Art Farmer / Last Night When We Were Young ( 米 ABC-Paramount ABC-200 )
このアルバムは1957年4月24日と29日にニューヨークで録音されている。クインシー・ジョーンズの編曲を小編成の弦楽隊が上品に演奏する中、
ファーマーは穏やかにメロディーを奏でる。ピアノはハンク・ジョーンズで、バリー・ガルブレイスも加わるなど、全体が洗練と上質の極みのような
雰囲気だ。57年のニューヨークと言えばハード・バップがピークを迎えていた時期だが、そんなのはどこ吹く風と言わんばかりに、ファーマーは
優し気にスタンダードを歌っている。
アート・ファーマーはキャリアの早い時期からレコーディングの機会に恵まれていて、レコードはその生涯を通じてたくさん残している。
駄作と呼べるようなものはなく、どれも一定水準以上の出来を誇っているし、中には歴史的名盤と呼べるようなアルバムもある。
ジャズミュージシャンには切っても切れないドラッグ問題にも無縁だったようだし、ジャズ業界の浮き沈みもうまく乗り切って最後まで
第一線のミュージシャンとして生きることができた。こんな堅実な人生を送ったビッグ・ネームは他には思い当たらない。
彼のそういう穏やかな人格はそのまま作品に反映されていて、ここでも本当に気負うことなくまっすぐ素直な演奏をしている。
既に彼の持ち味である独特の歌い方は完成していて、ややもするとチープなイージーリスニングになりがちなフォーマットを第一級のジャズとして
キープさせているのはさすがとしか言いようがない。雰囲気的にはブラウニーのウィズ・ストリングスのアルバムとよく似ていて、あそこまで
トランペットに圧はないけれど、それでもよく鳴る音色でスタンダードを崩すことなく、この人らしく心地よく扱っている。
このアルバムは意外と見かけない。アート・ファーマーのレコードとしてはレアな部類に属する。そもそもたくさん売れるタイプの作品ではないし、
当然1度のプレスだけで終わったようだから、弾数は少ないのだろう。
私もこのアルバム所有しております。記事でもおっしゃっている通り、甘いムード音楽に堕することなくきっちり芯の通った作品たり得ているのはアートファーマーの凄さだなと思います。
あまり頻繁に聴くアルバムではありませんが(通して聴くとちょうどお腹いっぱい、という感じなので)、聴く度に「ああ、良い音楽を聴いたな」という感慨が残ります。
そうですよね、騒ぐような内容では全くありませんが、
持っていると少しだけ嬉しいかも、いうタイプのレコードですかね。
そういうささやかな幸せがどれだけあるか、でQOLは変わってくるのかもしれません。